最新記事

テロ組織

テロリストたちの「新たな聖地」を支配する、謎の組織「HTS」とは何者か?

A NEW TERROR CAPITAL

2022年3月31日(木)12時50分
アンチャル・ボーラ(ジャーナリスト)
バイデン米大統領

ISの指導者アブイブラヒム・ハシミを追い詰めた米軍の作戦について語るバイデン米大統領(2月3日) SARAH SILBIGERーREUTERS

<アルカイダやイスラム国の指導者が潜伏していたシリア北西部イドリブ県。この地域を掌握する謎の組織HTSは、国際社会の味方か敵か>

2月初め、米軍の特殊部隊20人以上がシリア北西部の町に突入した。目的は、過激派組織「イスラム国(IS)」の最高指導者アブイブラヒム・ハシミの身柄を確保すること。だが逃げられないと観念したハシミは、自爆を選んだ。3年前に米兵に急襲された前任者アブ・バクル・アル・バグダディも、やはり自爆している。

この2人は、いずれもシリア北西部のイドリブ県に潜伏していた。そこを実効支配するのは「シリア征服戦線(HTS)」。かつてはアルカイダ系の武装集団だったが、今は改心して「イスラム主義の愛国勢力」だと自称している。

アメリカは2015年以降、イドリブ県でISやアルカイダの幹部多数を、たいていはドローン攻撃で殺害してきた。イドリブ県は今のシリアで反政府勢力が支配する唯一の地域だが、そこにはシリア国内で暗躍するテロ組織の幹部も集まっている。

アルカイダの首領ウサマ・ビンラディンは11年に、パキスタン北部のアボタバードに隠れているところを米軍に見つかり射殺された。当時はパキスタンが、アルカイダやタリバン戦闘員の隠れ家だった(なにしろタリバンの大半は、パキスタンのイスラム神学校で訓練を受けていた)。

どうやら今は、パキスタンの代わりにイドリブ県がテロリスト御用達の隠れ家であるらしい。この事態にアメリカはどう対処すればいいのか。そもそも打つ手はあるのか。

トルコに任すかアサドに引き渡すか

考えられる選択肢は2つだ。1つは現状の維持。トルコがシリアの北部一帯を実質的に支配することを認める一方、その地域でアメリカがテロリスト殲滅作戦を実行するのを黙認させる。もう1つは、ロシアを抱き込んで話をつけ、イドリブ県をシリアのアサド政権に引き渡すこと。ロシアのウクライナ侵攻が始まる前の時点では、アメリカは後者の選択に傾いていたと思われる。イドリブ県を売って、テロリスト対策はアサド政権に任せるということだ。

HTSも、自分たちはアルカイダやISの残党を摘発していると主張している。それでもバグダディやハシミの潜伏には気付かなかった、ということらしい。

一部のアナリストは、HTSはISとの戦いにおいてアメリカの協力者になり得ると考える。だが、IS指導者の潜伏に気付かなかったはずはないとする懐疑的な見方も多い。実際、HTSの戦闘員には過激派の支持者が多いとされ、HTSにも民主派の反政府組織を攻撃し、自分たちに批判的な活動家やジャーナリストを頻繁に拉致・拷問してきた陰惨な「実績」がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中