最新記事

歴史

プーチンの異常なウクライナ「執着」の源...1000年に及ぶ歴史から完全解説

TRAPPED IN OLD MYTHS

2022年3月10日(木)21時06分
クリスタプス・アンドレイソンズ(ジャーナリスト、在ラトビア)

1113〜25年にキエフを統治したウラジーミル2世モノマフは、「全ルスのアルコン(支配者)」という「ギリシャ式」の呼称を好んだ。モノマフの名は、ビザンティン帝国皇帝コンスタンティノス9世モノマコスにつながる系譜に由来する。

ビザンティン帝国は、正教会のトップを務める総主教による戴冠が行われた皇帝を擁し、諸国の王やアルコンの上に立つ存在だった。

だがこの秩序は、東方からの征服者に揺るがされる。まずモンゴル人の侵入を受けたキエフ大公国がいくつもの属国に分割され、さらに1453年にオスマン帝国によってコンスタンティノープルが陥落。栄華を誇ったキエフは荒廃した。ロシアの王たちの上に君臨していたビザンティン帝国の皇帝もいなくなった。

15世紀後半にモンゴル勢が弱体化し始めると、当時は「ロシア」と呼ばれていた旧キエフ大公国の一部が正統性を取り戻そうとした。しかし西部地域では、現在のウクライナ西部の大半がポーランドに併合され、ベラルーシがリトアニアに吸収されるなど、さまざまな脅威にさらされていた。

かつてキエフ大公国の中心地だったウクライナがその名を得たのは、この頃だった。ウクライナと呼ばれるようになった根拠については、主に2つの説がある。

多数の歴史学者とロシア政府が支持する説では、1569年にキエフ大公国の中心地だったキエフがポーランド王国の支配下に入ると、この地域は古代スラブ語で「国境の隣」を意味するウクライナと非公式に呼ばれるようになった。ポーランド側から見れば、平原に接し、タタール人などの半遊牧民がいたためだ。

220308p32_tim02.jpg

かつてコンスタンティノープルの戦いで破壊されたルス艦隊を描いたリトグラフ FINE ART IMAGES-HERITAGE IMAGES/GETTY IMAGES

モスクワを「第3のローマ」にする

その一方、ウクライナの学者と政府は、ウクライナ語の「oukraina」と、古代スラブ語の「okraina」の意味の違いに着目する。どちらも語源は古代スラブ語で「境界」を意味する「kraj」だが、前置詞に重要な違いがある。「ou」は英語の「in」、「o」は「a b o u t 」や「around」を意味する。

つまりウクライナ語の「oukraina」は「中央に所属する土地」を意味し、キエフ大公国を取り囲む土地、あるいは直接的に従属する土地を指す。こじつけのようだが、ウクライナ人にとってはキエフ大公国の系譜への強い帰属感をもたらす説だ。

一方でロシアは、正教会における自らの位置付けと、ローマ帝国に連なる国家的・政治的な正統性の起源を唱える必要に迫られた。「第2のローマ」であるコンスタンティノープルがイスラム国家のオスマン帝国に征服されたため、モスクワが「第3のローマ」にならなくてはいけない。

ロシアの言い伝えでは「2つのローマが陥落し、第3のローマは興隆する。そして第4のローマはないだろう」とされた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、人質のイスラエル軍兵士の遺体を返還へ ガザ

ワールド

中国外相、EUは「ライバルでなくパートナー」 自由

ワールド

プーチン氏、G20サミット代表団長にオレシキン副補

ワールド

中ロ、一方的制裁への共同対応表明 習主席がロ首相と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中