コラム

【モスクワ発】ウクライナ戦争を熱烈支持するロシア人の心理

2022年03月08日(火)13時30分

ロシアがウクライナに 侵攻した2月24日の モスクワ・赤の広場 ANDREY RUDAKOVーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<多くのロシア人は親族にウクライナ人がいるが、それでもなおプーチンの戦争を支持している>

子供時代のウラジーミル・プーチンに関する有名な話がある。

貧しい環境で育ったプーチン少年は、アパートでしばしばネズミと遭遇した。あるとき、1匹のネズミを隅に追い詰めたことがあった。

すると突然、そのネズミが猛烈な勢いで歯向かってきた。その経験を基に、プーチンはこう忠告している。敵を窮地に追い込んだときは、激しい抵抗があると覚悟しておいたほうがよい、と。

今のロシア情勢に重ね合わせると、実に不吉な忠告だ。ウクライナ問題で追い込まれたプーチン大統領がこのエピソードのネズミのような行動を取っても不思議でない。

西側で指折りの安全保障専門家の1人もその可能性を指摘する。

「予想より厳しい事態に直面して、(プーチンは)捨て鉢になるだろう」と、オバマ政権で国防長官を務めたアシュトン・カーターは言う。「その結果、暴力のレベルをさらに引き上げることになりそうだ」

ロシアのウクライナ侵攻という賭けが途方もない失敗だったという点で、専門家の見方は一致しつつある。

ある著名な軍事専門家が私に語ったところによれば、ロシアはいくつかの計算違いをしていたという。

第1に、ウクライナがすぐに降参するものと思い込んでいた。ウクライナ人の闘志と戦闘能力を見くびっていたロシア側は、初期段階で激しく動揺する羽目に陥った。

第2に、元俳優のウォロディミル・ゼレンスキー大統領を中心に、ウクライナがこれほど有効なメディア戦略を展開することも予想できていなかった。ウクライナ人の言葉や戦いぶりは、世界の人々の共感を集めている。有名アスリートや元ミス・ウクライナ、前大統領などが武器を取り、祖国を守ろうとしている。

第3に、ロシアは西側の結束を過小評価していた。西側諸国は、堕落と自信喪失と無関心ゆえに、ロシア軍がウクライナの首都キエフを制圧し、ウクライナ指導部の首をすげ替えることを容認するだろうと考えていた。

ウクライナを支援したり、ロシアに厳しい制裁を科したりすることはないと踏んでいたのだ。

ウクライナ政府に責任転嫁これらの誤算が積み重なった結果、ロシアが軍事的勝利を手にするために、途方もない犠牲を払うことはもはや不可避だ。

ロシア兵の命とロシア経済に甚大な犠牲が生じるだけでなく、ウクライナのおびただしい数の一般市民の命も失われることが避けられない。

ロシアは当初、これを「特別な軍事作戦」と呼び、最小限の犠牲により短期間で目的を達成できると考えていた。

しかし次第に、シリア紛争やチェチェン紛争のような血みどろの戦いになりつつあるように見える。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story