コラム

プーチンは本気で「歓迎」されると思っていた...幻想を打ち砕かれ、本格攻撃へ

2022年03月08日(火)17時10分
ウクライナ市民の抵抗

西部の都市ジトーミルで、ロシア軍侵攻に備えて火炎瓶を投げる練習をする市民たち Viacheslav Ratynskyi -REUTERS

<ロシア軍がここまで苦戦する背景には、「クリミア併合を大型バージョンで再現する」というロシア側の甘い見通しがある。現実を思い知ったロシアの出方は?>

[ロンドン発]ウクライナ軍の激しい抵抗に直面しているロシア軍は今後24〜96時間以内にウクライナの首都キエフに攻め入る態勢を整えようと東、北西、西方面に兵力を集中させている。物資や援軍を増強するとともに、ウクライナ軍やキエフ市民の士気を削ぐため砲撃、空爆、ミサイル攻撃を行っている。

ロシア軍に詳しいキエフ出身の米シンクタンク海軍分析センター(CNA)ロシア研究プログラム部長、マイケル・コフマン氏は英シンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)のオンライン講演会でロシア軍の初期のパフォーマンスが戦前の予想をはるかに下回った理由をこう分析した。

220308kmr_urc02.png

マイケル・コフマン氏(筆者がスクリーンショットで撮影)

「大きなポイントは2つある。まず統合した作戦が行われなかった。この作戦の背後には2014年のクリミア併合を大型バージョンで再現しようという計算と仮定があった。ロシア軍は戦闘を回避して、2~3日のうちにウクライナの政権交代を実現するつもりだった。私たちが予想していたような合理的な軍事作戦や兵力投入は初期の段階では行われなかった」

「2つ目は、ロシア軍は戦争のための準備をしていなかった。軍事作戦なしにウクライナへの全面侵攻を始めた。そして部隊にも伝えていなかった。下級将校が知ったのはせいぜい前日の夜だったのは明らかだ。兵士に演習だと嘘をついてウクライナに侵攻させた。これは士気に関わる問題だ。多くの兵士が完全に機能する装備を放棄して逃げ出した」

侵攻4日目にスーパーに買い出しに走ったロシア兵

ロシア軍は、道路網の要衝にある街を押さえて主要都市を孤立させれば作戦は成功すると考え、進軍した。しかしウクライナ軍の猛烈な反撃にあって「ロシア軍は鼻血を流した」とコフマン氏は表現した。ロシア軍は物資を3日分しか準備していなかったため、4日目には兵士がウクライナ各地のスーパーに買い出しに走った。

先陣が先に進みすぎているため、補給が追いつかない。ロシア軍の戦車、装甲車、牽引砲からなる60キロメートル以上の隊列がキエフに向け進軍を始めたものの、燃料や食料、水不足で立ち往生し、ウクライナ軍に狙い撃ちされている。2~3日置きに攻撃を止めて、作戦の立て直しを図らざるを得ないのがロシア軍の実情だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、2日にウィットコフ米特使とモスクワで会

ビジネス

英住宅ローン承認件数、10月は予想上回る 消費者向

ビジネス

米テスラ、ノルウェーの年間自動車販売台数記録を更新

ビジネス

英製造業PMI、11月改定50.2 約1年ぶりに5
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 7
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 8
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story