最新記事

災害

トンガ噴火の救援を妨げた「通信喪失」、海底ケーブル網の災害リスクとは

Cable Chokepoints

2022年1月26日(水)17時26分
デール・ドミニーハウーズ(シドニー大学教授〔災害リスク科学〕)
トンガ海底ケーブル網

TELEGEOGRAPHYーREUTERS

<国内外をつなぐ唯一の海底ケーブルが断線し、通信手段を失うという悲劇が。世界は通信手段の多様化を探るべき>

南太平洋に浮かぶトンガ諸島で、海底火山の大規模噴火が起きたのは1月15日のこと。その後、トンガの住民と国外のコミュニケーションは数日間にわたってほとんど途絶えたままだった。

世界が密接に結び付く昨今の情報化社会にあって、地球上のデータのやりとりの約95%は海底に敷設された光ファイバーケーブルを通して行われている。この極めて重要なインフラが破損したり遮断されると、その地域はもちろん、世界的にも大惨事となりかねない。これこそが今、トンガで起きていることだ。

1989年以降、地球上の海底に張り巡らされた光ファイバーケーブルの長さは驚異の88万5000キロ以上に及ぶ。ケーブルは狭い回廊に密集しており、そのチョークポイント(難所)は火山噴火や海底での地滑り、地震や津波などさまざまな自然災害に対して脆弱で、また一部の損傷が通信全体に影響しやすい。

トンガが世界の海底ケーブル網に加わったのはここ10年のことだ。海底ケーブルは衛星通信や固定インフラなどの技術よりも安定しているため、トンガは海底ケーブルに大きく依存してきた。

今回は恐らく津波や海底での地滑りなど、噴火による災害が起きたことで、トンガと国外をつなぐ872キロの光ファイバーケーブルが破損したとみられる。

その結果、オーストラリアやニュージーランドに住むトンガ人たちは、トンガ諸島に住む愛する人の無事を確かめたくとも連絡が取れなくなった。政府や救急隊が互いに連絡することも難しく、救援や復興に何が必要かを見定められなかった。

オンラインサービスは停止し、停電も事態を悪化させている。トンガと国外をつなぐケーブルは、首都ヌクアロファと800キロ以上離れた隣国フィジー間の1つしかない。トンガ国内の島と島をつなぐケーブルがないのだ。

難所は災害が起きやすい

海底ケーブルは最短距離(つまり最も安価に設置できる距離)を結ぶ2点の間をつないでいる。これらは地理学的に設置するのが簡単な特定の場所に置かれるため、チョークポイントに集まりやすい。

チョークポイントとして注目すべき例は、ハワイ諸島や、スエズ運河、グアムやインドネシアのスンダ海峡などだ。困ったことに、これらは自然災害が起きやすい場所でもある。ケーブルは一度損傷すると修復するのに数日から数週間、または数カ月かかり、海底の深さやアクセス状態によっても要する時間は変わる。

オーストラリアでは、世界のケーブルネットワークへの接続ポイントがシドニーからパースにかけての数カ所しかない。シドニー沖の海底ではかつて大きな地滑りが起きていたことも分かっている。

ネットワークの脆弱性を考えたとき、リスクを最小限にするために何ができるのか。まずは、特定地域の海底ケーブルが数種の自然災害の影響に対してどれくらい脆弱なのか、リスクを評価し数値化する研究が必要だ。例えば、熱帯低気圧(ハリケーンや台風)は定期的に起きているが、地震や火山噴火が起きる頻度はそれに比べて少ない。

いま現在、海底ケーブルネットワークのリスクについての公的データはほとんどない。どのケーブルがどのタイプの自然災害に対して脆弱かが分かれば、リスク軽減に向けての対策を考えられる。それと同時に、政府と電子通信企業は衛星通信などの技術を使い、われわれの通信手段を多様化する道を探るべきだ。

The Conversation

Dale Dominey-Howes, Professor of Hazards and Disaster Risk Sciences, University of Sydney

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ支援船、イスラエル軍が残る1隻も拿捕

ビジネス

世界食糧価格指数、9月は下落 砂糖や乳製品が下落

ワールド

ドローン目撃で一時閉鎖、独ミュンヘン空港 州首相「

ビジネス

中銀、予期せぬ事態に備える必要=NY連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 6
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 7
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 8
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 9
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中