最新記事

東南アジア

「ワクチン未接種者が外出すれば逮捕」 ドゥテルテがブチ切れたフィリピンの深刻な医療逼迫

2022年1月8日(土)21時22分
大塚智彦

2021年末の時点でワクチン接種を完了している人はフィリピンの人口1億1000万人の45%に当たる約4980万人にとどまっている。

ワクチン不足、医療スタッフ不足、そしてワクチン接種を希望しない市民の存在などが低い接種率につながっているとみられている。

ドゥテルテ大統領はかつて「(使用済みの)マスクはガソリンで消毒するといい」(2020年7月31日)「ワクチン接種を受けるか投獄されるかを選択することになる」(2021年6月21日)、「ワクチンを3回接種するとあなたは死亡する、それは間違いないことだ」(2021年9月30日)などという不規則発言をこれまで続けてきただけに今回の発言も「また冗談か」と国民は冷静に受け止めているのが実態だ。

大統領の過去の問題発言に「冗談に過ぎない」と反応してきた大統領府も、今回の発言には言及していない。

台風被害の復旧が最優先政策に

フィリピンは2021年12月にスーパー台風「オデット」(台風22号)の直撃を受けて中部セブ島、マクタン島、ボホール島などを中心に死者約400人、負傷者約1200人、行方不明者は80人以上に及ぶ被害を受けた。

これまでの報道によると被災者の合計は約50万人に達するという深刻な打撃を受け、電気、水道が途絶し、家屋破壊を受けた被災者の収容施設も不足するなど現在も各地で被災者支援、インフラ復旧が続いている。

台風被害に加えて被災地ではコロナ感染防止も急務となっており、フィリピン政府にとっては被災地の復旧とコロナ対策が最重要課題として迫られている。

こうした中、5月に実施される次期大統領選挙で大統領候補に立候補している世界的なボクサーで国民的英雄のマニー・パッキャオ氏らが被災者支援を表明。野党大統領候補のレニー・ロブレド副大統領は被災地を訪問するなど大統領選に関連した動きも活発化。ドゥテルテ大統領も被災者への経済的支援を表明している。

一方で大統領府は6日、マニラ首都圏と近隣のラグナ、カビテ、ブラカン、リサールの4州、バタンガス州、アンヘレス市など5州9市の防疫警戒度を9日から「レベル3」に引き上げることを決めるなど、コロナ感染拡大は待ったなしの状況に追い込まれている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、温室効果ガス40年に90%削減を提案 クレジ

ビジネス

物価下振れリスク、ECBは支援的な政策スタンスを=

ビジネス

テスラ中国製EV販売、6月は前年比0.8%増 9カ

ビジネス

現在協議中、大統領の発言一つ一つにコメントしない=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中