最新記事

韓国

大統領選が迫る韓国で、突如勃発した「薄毛」論争...選挙の争点は毛髪?

South Korean Presidential Candidate Gets Bald Vote By Touting Hair-Loss Treatment Coverage

2022年1月7日(金)17時24分
アユミ・デービス
李在明

Kim Hong-Ji-REUTERS

<これまでの大統領選では北朝鮮の核開発や経済対策、対米関係などが争点となってきたが、トップ候補の提案で「薄毛」対策が議論の的に>

今年3月に行われる韓国大統領選挙を控え、与党「共に民主党」の候補である李在明が、薄毛に悩む人々から強く支持され始めている。脱毛症の治療費を政府が一部負担するべきだ、と提案したからだ。

李は1月5日、報道陣に対し、脱毛症の治療に国民健康保険を適用すべきだという考えを明かした。李はフェイスブックでも、「脱毛症の治療で困っていること、政策に反映させるべきことを教えてほしい」と呼び掛けていた。「薄毛治療に関する完璧な政策を提案するつもりだ」

これまで韓国の大統領選と言えば、北朝鮮の核開発、政治家のスキャンダル、経済対策、対米関係などが主な争点となってきた。だが今回は李の提案をきっかけに、脱毛症が一躍、熱い議論の的となっている。

オンラインでは薄毛に悩む人々が、この提案を支持するメッセージを続々と書き込んでいる。「敬愛する在明の兄貴、愛してる。俺があなたを青瓦台(大統領官邸)に『植え込んで』みせる」「大統領閣下! あなたは韓国で初めて、薄毛の人々に新たな希望をもたらそうとしている」といった具合だ。

李によれば、韓国には薄毛に悩む人が1000万人近くいるが、その多くが高額な治療を受けることができず、代わりに国外から医薬品を取り寄せたり、前立腺の薬を使ったりしているという。その状況を受けて李は、「完全な身体」というものを考えた場合、薄毛治療への保険適用は必要な手段であり、財政への影響を調べているところだと述べた。

トップ候補だが、ポピュリスト批判も

李はかつて、「成功するバーニー・サンダース」になりたいと語ったことがある人物だ。京畿道知事を務めていた時代には、ベーシックインカムを提唱したことや、新型コロナウイルス感染症への対応で有名になった。

歯に衣を着せぬリベラル派として知られる李は現在、世論調査では大統領候補としてトップを走っている。しかし彼を危険なポピュリストと警戒する声や、今回の提案を票集めの戦略に過ぎないと批判する声もある。

保守派の文化日報は、1月6日付けの社説で次のように論じた。「(李のアイデアは、)薄毛を気にする多くの人にとって必要な対策に見えるかもしれない。しかし、国の保険制度の財務的安定性が損なわれることを考えると、深刻なポピュリズム以外の何物でもない」

野党「国民の党」の候補である安哲秀は、李の提案を「無責任」と断じたうえで、もし自身が当選したら、ジェネリック医薬品の価格を下げ、新しい治療法の開発費を支援すると約束した。

加齢や遺伝的要因による脱毛症は現在、政府が運営する保険制度の対象には含まれていない。原因が特定の病気である場合のみ、国民健康保険の対象となっている。なお韓国では、5人に1人が薄毛に悩んでいるとされる。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

伊プラダ第1四半期売上高は予想超え、ミュウミュウ部

ワールド

ロシア、貿易戦争想定の経済予測を初公表 25年成長

ビジネス

テスラ取締役会がマスクCEOの後継者探し着手、現状

ワールド

米下院特別委、ロ軍への中国人兵参加問題で国務省に説
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中