最新記事

新型コロナウイルス

刑務所での感染拡大を防ぐため、「起訴見送り」や「釈放」も実施すべきだ

Keeping Jails Safe from Omicron

2022年1月6日(木)12時52分
ジョシュア・マンソン(ジャーナリスト)
ペンシルベニア州の刑務所

ペンシルベニア州の刑務所では昨冬、クラスターが発生した MARANIE R. STAABーREUTERS

<常に過密状態にある刑務所・拘置所は新型コロナのクラスターの温床だ。新たな流行を防ぐには3本立ての施策が鍵を握る>

アメリカでは新型コロナウイルスのパンデミックで最も感染が拡大したホットスポットのいくつかは刑務所・拘置所だった(編集部注:アメリカの拘置所は地方当局の管轄下にあり、未決囚と短期刑の受刑者を収容している)。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校法科大学院チームの集計と分析で、パンデミック発生からこの方、アメリカの受刑者は一般の人よりも新型コロナの感染率が3倍以上、死亡率は2倍以上高かったことが分かっている。

特に昨冬は刑事施設での大規模クラスターが相次いだ。2020年12月半ば~21年2月だけでも10万人超の受刑者が感染、少なくとも727人の死亡が報告された。同時期に刑事施設の職員も3万1000人超が感染、少なくとも73人が亡くなった。

オミクロン株が広がり、新たな感染拡大が懸念されるなか、前回の二の舞いを避けるには迅速な対応が急務だ。

アメリカの刑務所・拘置所の過密状態は以前から問題視されていた。パンデミックのさなかにもマスクや消毒剤が不足し、検査もまともに行われなかった。公衆衛生の専門家は収容人数を減らすよう訴えたが、各州当局と施設側の反応は鈍く、施設内の「密」は緩和されなかった。

その結果、「塀の中」だけでなく外にも感染が広がった。ある調査報告によれば、20年夏には、刑事施設の過密状態が生み出した新たな感染者が50万人を超えたという。別の調査では、イリノイ州の感染者の約16%は感染経路をたどると最終的にクック郡拘置所に行き着くことが分かった。

収容人数を減らして密の解消を

これまでの経験から、いま打つべき手は明らかだ。刑事司法機関のあらゆるレベルでエビデンスに基づく感染対策を実施する必要がある。

まずは収容人数を減らすこと。パンデミックが始まったときから公衆衛生の専門家は密の解消が最優先だと主張していた。高齢の受刑者が多い刑務所はもちろんのこと、被収容者の入れ替わりが激しく周辺地域に感染を広げかねない拘置所も例外ではない。

受刑者のソーシャルディスタンス確保を助けるためには、検察官は保釈金が払えない被疑者が拘置所に入らずに済むよう比較的軽い罪については起訴を見送るべきだ。また裁判所は刑事施設がコロナ対策のために受刑者を釈放することを認めてほしい。州知事、州議会、刑務官、保安官もそれぞれの執行・立法権限で密解消に努めるべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中