最新記事

一帯一路

世界的な海運業の「支配」を、慎重に着実に強める中国の深慮遠謀

2022年1月5日(水)17時29分
マシュー・ロシャ
寧波舟山港

世界トップクラスの貨物取扱量を誇る浙江省の寧波舟山港 CNSPHOTOーREUTERS

<海運機材や船舶の製造・保有で世界をリードし、さらに海上路の要所となる「港」を世界各地で100以上も所有>

バイデン米大統領は昨年、西海岸のロングビーチ港とロサンゼルス港を24時間年中無休で操業する計画を発表した。新型コロナウイルス感染症の流行の影響による需給の大幅な変動や港湾労働者の不足によって、アメリカに入るコンテナの約40%を扱うこの主要2港は大混雑。港に積み上がるコンテナの山は、世界経済における海運業の重要性を改めて認識させた。

歴史的に見ても、世界の航路の掌握は国家の経済政策、軍事政策における重要な目標だった。19世紀の米海軍戦略家アルフレッド・セイヤー・マハンは『海上権力史論』で、国家の偉大さは海洋支配権と直結するとし、給油地や運河、港湾などの戦略的重要性を強調した。

その点、中国が国内外で海運業への投資を拡大していることは、アメリカなど地政学的ライバルにとって大きな懸念材料だ。中国は海運機材の主要メーカーであり、世界の海運コンテナの96%、港湾クレーンの80%を生産。2020年の世界の造船注文の48%を受注し、商船の保有船腹量では世界第2位を誇る。

中国は過去10年で、海洋商業圏における支配を強めてきた。中国政府にすればそれは偶然の産物ではなく、慎重かつ戦略的な計画の結果だ。

中国が強い関心を示す港湾の所有権

13年9月、中国の習近平国家主席はカザフスタンのナザルバエフ大学で講演し、「一帯一路」構想を初めて発表した。3つの大陸にまたがり140カ国が協力する巨大経済圏には、2つの要素がある。1つは陸上の経済帯で、中央アジアに高速道路や鉄道網、ガスパイプライン、石油精製所、発電所などを建設するもの。もう1つは海上路で、中国との貿易に使われる港湾や海洋回廊。海上路の戦略で中国が強い関心を示しているのが、港湾の所有権だ。

現在、中国にはどの国よりも多くの積み出し港があり、そのうち7港はコンテナ取扱数で世界トップ10に入る。さらに中国は約63カ国で、100以上の港を所有している。

主な例としては、スリランカのハンバントタ港の99年間の運営権や、パキスタンのグワダル港の40年間の運営権を中国企業が得ていることが挙げられる。インド洋と紅海を結ぶ要衝に近いジブチ港には、35億ドルを投資した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ

ワールド

アングル:好調スタートの米年末商戦、水面下で消費揺

ワールド

トルコ、ロ・ウにエネインフラの安全確保要請 黒海で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中