最新記事

一帯一路

「一帯一路」参加でイタリアは中国の港になってしまうのか

Italy joins China’s Belt and Road Initiative – here’s how it exposes cracks in Europe and the G7

2019年3月26日(火)15時08分
ウィニー・キング(ブリストル大学東アジア&国際政治経済学部ティーチングフェロー)

中国が投資することになったイタリアのジェノバ港は地中海で最も重要な港の1つ SurkovDimitri/iStock. 

<国際社会からの批判をしり目に自国の利益を優先させたつもりのイタリアだが>

イタリアは主要7カ国(G7)のメンバーとして初めて、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」への正式な支持を表明した。これがEU(欧州連合)とアメリカの怒りを買っている。

中国の習近平国家主席は3月21日から3日間の日程で、ユーロ圏3位の経済大国で2018年末から景気後退に苦しむイタリアを訪問した。イタリアが一帯一路に関する覚書に署名したことで、署名国は124カ国に達した。

2013年に提唱された一帯一路は、地域の協力や開発、連結を促進するインフラ投資・建設プロジェクトに重点を置いた大陸横断プロジェクトだ。加盟国は貿易やエネルギー、交通などのネットワークへのアクセスを与えられるもので、中国はこれを「双方に発展をもたらすウィン・ウィンの関係」と謳っている。

だが中国の真の狙いについては、世界での影響力を拡大することではないかとか、一帯一路に参加すれば中国に依存することになりかねない、など懐疑的な見方も少なくない。現に一帯一路は現在、世界人口の3分の2をカバーし、同構想へのこれまでの投資総額は1兆ドルを超えたとみられる。

世界2位の経済大国という魅力

中国に対する見方でイタリア政府内の意見は完全に一致している訳ではないが、深刻な景気後退のなか、世界2位の経済大国である中国は彼らにとってこれまで以上に魅力的な存在になっている。元駐中国イタリア大使のアルベルト・ブラダニーニは、今回のイタリアの決断の背景には、EUが一帯一路についていつまでも煮え切らず、対中貿易赤字(イタリアはEUの対中貿易赤字の8分の1を占める)削減のめどさえ立たなかった事実がある、と強調した。

イタリアは中国との貿易(特に輸出)拡大によって、「メイド・イン・イタリー」を強化したい考えだ。イタリア製の商品(特に高級ブランド品や食料品)は、中国の中間所得層や富裕層にとって魅力のはずだ。

中国もイタリア企業への投資に関心を持っている。だが中国にとって何より重要なのは、港湾などイタリアの主要なインフラ資産だ。そこへのアクセスを得られれば、そこからさらにヨーロッパ各地へのアクセスが得られ、一帯一路の交通・貿易ネットワークを強化できる。現在中国からイタリアへの輸入品のうち海上輸送によるものは2%未満のため、今後まだまだ成長が見込めるのだ。

アジアインフラ開発銀行からの投資も期待

既にジェノバの港湾当局と中国交通建設(中国の運輸会社)の提携をイタリア政府が承認しており、港湾都市トリエステも同様に中国との合意を交わしたい考えだ。こうした合意が実現すれば中国と一帯一路構想は、ヨーロッパ大陸へのより直接的な輸送ルートや、ドイツ、オーストリア、スロベニアをはじめとするヨーロッパ諸国の鉄道その他の交通ネットワークにアクセスするための理想的なハブを手にすることになる。

イタリアは、中国に国内の港へのアクセスを提供することで、中国主導のアジアインフラ開発銀行(AIIB)からの投資が得られることを期待し、一帯一路における自国の役割とAIIBを関連づけようと試みている。

習の訪問先に港湾都市パレルモが含まれていることを考えると、中国がヨーロッパの輸送拠点として同港を選択肢に入れていることは明らかだ。2018年9月には北アフリカのアルジェリアが一帯一路構想に参加しており、パレルモとの提携が実現すればアフリカへの新たな貿易ルートを築くのに役立つだろう。

イタリアの今回の決断について、国際社会の反応は、ひいき目に言って複雑だ。ドイツとフランスは先頭に立ってイタリアを批判。透明性の欠如や、一帯一路において中国企業が優遇される不公平の問題、欧州企業の国内プロジェクトへの参加を制限する中国の保護主義など、懸念を並べ立てた。

国際社会は批判的も足並みは揃わず

EUは特に、イタリアの決断がEUの対中政策に及ぼす影響を懸念している。だがヨーロッパの対「一帯一路」政策に関しては、既に2017年の時点で団結が崩れていることは特筆すべきだろう。同年、中国の李克強首相がハンガリーを訪問した際に、同国とポーランドやチェコをはじめとする中・東欧諸国が一帯一路に参加。ギリシャ、ポルトガルとクロアチアもその後に続いた。

アメリカも、イタリアの決断は一帯一路に関するG7の立場を崩すものだと批判してきた。ドナルド・トランプ米政権は、一帯一路は「債務の罠」外交のツールであり、中国は偉ぶっていると非難している。

米中間の対立の激化も影響している。両国は貿易戦争の渦中にある。アメリカが中国のハイテク企業、華為技術(ファーウェイ)製の通信機器の使用を禁止し、スパイ罪で訴追したのは、アメリカが戦略産業への中国の投資や買収を警戒している証拠だろう。だがここでも同盟諸国の足並みは揃わず、イタリアの電話大手テレコム・イタリアやイギリスなどは、ファーウェイ製品の使用を続ける見込みだ。

今後も予想される「勝手な行動」

習近平によるイタリア訪問の影響は、4月9日にブリュッセルで開かれるEU中国首脳会議でよりはっきりするだろう。だが首脳会談に先立ち、中国に対して懐疑的な見方を募らせているEUの指導部は、中国を「システミック・ライバル」とする公式の戦略文書を発表した。この中でEUは一帯一路では、中国に対してインフラや投資プロジェクトの分野における説明責任と透明性の向上を求め、EU一体となって圧力をかけていくよう加盟国に呼びかけている。さらに3月18日には全ての加盟国に対して、中国企業の公的調達プロジェクトへの入札を禁じるよう呼びかける提案を発表した。

イタリアがG7のメンバーであることは、中国指導部にとっても同国が一帯一路の正当性を主張する上でも大きな魅力だ。イタリアの一帯一路参加によって、今後EUの対中アプローチの足並みが乱れることが予想されるが、中国もまたこれまでEU加盟国を個々に狙って手中に収めることで、EUを効果的に分裂させてきた。

だからイタリアによる今回の決断は、大きな意味を持つ。4年前には、イタリアだけでなくフランスとドイツが、アメリカの希望に反してAIIBに参加している。それを考えれば、ヨーロッパ諸国の中で、国益を優先して中国との関係において「自分勝手に行動する」国はイタリアが初めてではないし、最後にもならないだろう。

Winnie King, Teaching Fellow East Asian and International Political Economy, University of Bristol

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中