最新記事

宇宙

太陽圏の形は「しぼんだクロワッサン」、その理由を解明

2021年12月10日(金)17時00分
松岡由希子

太陽圏の形状は「しぼんだクロワッサン」のような形をしている...... (M. Opher)

<太陽圏の形状は「しぼんだクロワッサン」で、その形成には、太陽系外から飛来する中性水素粒子が重要な役割を果たしていることが示された>

太陽系は「太陽圏(ヘリオスフィア)」と呼ばれる荷電粒子の泡に包まれ、宇宙線などから守られている。太陽圏は太陽系のはるか遠くまで広がっており、太陽系の内側からその形状や大きさをとらえることは難しい。従来、太陽圏は丸みを帯びた先端部分に長い尾が伸びる彗星のような形状だと考えられてきた。

これまでに太陽圏を直接観測したのは、アメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙探査機「ボイジャー1号」と「ボイジャー2号」だけだ。

PIA22566_a-thumb-720xauto-143918.jpg

「太陽圏」を脱したボイジャー1号、2号 NASA/JPL-Caltech

太陽系外から飛来する中性水素粒子が重要な役割を果たしている

米ボストン大学メラヴ・オプファー教授らの研究チームは、これらの観測データなどをもとに太陽圏の特徴を予測し、2020年3月に発表した研究論文で、太陽圏の形状が「しぼんだクロワッサン」であることを示した。

研究チームは、宇宙全体でみられる宇宙ジェット(天体に降着するプラズマガスの一部が細く絞られて双方向に吹き出す現象)と同様の「太陽圏ジェット」が不安定である点に注目。

その原因についてさらに研究をすすめ、2021年12月1日、その研究成果を学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」で発表した。

turbulence-solar-jets.jpg

「太陽圏ジェット」の計算モデル (M. Opher/AAS)

これによると、太陽系外から飛来する中性水素粒子が太陽圏の形成に重要な役割を果たしているとみられる。計算モデルを用いて中性水素粒子の影響を調べたところ、中性水素粒子を取り除くと太陽圏ジェットは極めて安定したが、中性水素粒子を戻すと曲がりはじめ、中心軸が揺れはじめた。これは、太陽圏ジェットの内部の何かが非常に不安定になっていることを示している。

理論上は、このような不安定な性質によって太陽から吹き出す太陽風やジェットに擾乱が生じ、太陽圏がクロワッサンのような形状に分裂していると考えられる。具体的には、中性水素粒子が太陽圏に衝突し、「レイリー・テイラー不安定性」と呼ばれる現象を引き起こす。これは、密度の異なる2つの流体が衝突する際、軽い流体が重い流体を押すことで生じる不安定性だ。

研究論文の共同著者でメリーランド大学の天体物理学者ジェームズ・ドレイク特別教授は、この研究成果について「太陽圏の形状が北と南に分裂している理由を初めて明解にした」と評価し、「銀河宇宙線がどのように地球やその近傍に入ってくるのかを解明する手がかりになるかもしれない」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

世界原油需給、26年は小幅な供給過剰 OPECが見

ビジネス

ミランFRB理事、利下げ改めて主張 「インフレは低

ビジネス

インフレなおリスク、金利据え置き望ましい=米アトラ

ビジネス

トヨタ、米に今後5年で最大100億ドル追加投資へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 3
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 4
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 7
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中