最新記事

中国

安倍元首相オンライン演説を台湾はなぜ歓迎しないのか?

2021年12月6日(月)12時39分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

ところが1969年に国連のECAFE(Economic Commission for Asia and the Far East。アジア極東経済委員会)が尖閣諸島などの東シナ海に海底油田や天然ガスが眠っているようだと報告すると、在米台湾留学生が尖閣諸島に関する台湾の領有権を主張してデモを起こし始めた。というのは、中華人民共和国が「中華民国」に代わって国連に加盟しようと動き始めていたからだ。

毛沢東は建国以来、尖閣諸島の領有権は日本にあると主張していたのに、海底油田や天然ガスがあることを知ると、中国は突如、「釣魚島(大陸における尖閣諸島の呼称)は中国のものだ」と主張するようになった。

だから在米の台湾留学生たちは「蒋介石が無能だから、このようなことになる」として抗議デモを始めたのだ。

この実態を調べるために私は何度も行っているサンフランシスコに再び行き、当時のデモ参加者の記録を入手し、かつスタンフォード大学フーバー研究所にある蒋介石直筆の日記で当時の記録を確認しているので、これは間違いのない事実である。

1970年に入ると蒋介石の体力はかなり弱ってきたので、息子の蒋経国が蒋介石に代わり「釣魚台(尖閣諸島)は中華民国のものだ」と主張するようになった。

そこでアメリカは沖縄返還に当たり、「領有権に関してはアメリカは関わらない。当事者同士で話し合って解決してくれ」とサジを投げてしまった(このことは、2015年4月29日のコラム<日本が直視したがらない不都合な事実――アメリカは尖閣領有権が日本にあるとは認めない>でも少し触れた)。

以来、「中華民国」(台湾)は、「釣魚台(尖閣諸島)の領有権は中華民国にある」と強く主張するようになっている。

しかし、たいへん残念なことに、日本のマスコミや「中国研究者」あるいは「国際政治学者」、さらには「元外交官」までが、安倍氏が台湾に対して上述のような講演をすることは、「中華民国の領土主権を侵犯する言葉を発したのに等しく」、「台湾を侮辱したに等しい」という認識を持つことができないままでいる。

真相を見極める見識の欠如は、日本を誤った道へと進ませることに気が付かなければならない。

尖閣諸島が日本の領土であることに疑いの余地はないが、台湾を「友好国・地域」として味方につけたければ、最低限、本稿で論じた基礎知識くらいは持たなければならないだろう。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中