最新記事

動物

サンフランシスコ沖でネズミ6万匹の大繁殖 ヘリ投入の根絶計画へ

2021年12月29日(水)15時26分
青葉やまと

殺鼠剤をヘリから投入......で問題に KPIX CBS SF Bay Area-YouTube

<かつて「死者たちの島」と恐れられたファラロン諸島。近年ではネズミ被害が常態化している>

サンフランシスコの沖合約50キロに浮かぶファラロン諸島で、ネズミの大繁殖が問題になっている。規制当局は殺鼠剤を空輸しての根絶プロジェクトにゴーサインを出した。

同諸島は気象条件によってはサンフランシスコから望むこともできるが、霧に浮かぶ断崖絶壁の厳めしい姿で知られる。16世紀以前には「死者たちの島」として恐れられていた。過去10年間ほどではより現実的な問題として、ネズミの異常な繁殖が懸念事項となっている。

諸島とはいってもさほど規模は大きくなく、メインとなるサウスイースト・ファラロン島とメイントップ島の隣り合った2つの島は、あわせて幅1キロ少々というささやかな存在だ。諸島すべてを合計しても0.8平方キロほどの面積に留まる。

1969年に野生生物保護区に指定されており、今では研究者を除く人々の立ち入りは禁じられている。人の姿をほとんどみない現地は、ウミツバメやカモメなど海鳥、そしてアザラシやアシカなどにとって格好の繁殖地となった。米魚類野生生物局によると、サメやコウモリ、サンショウウオの仲間など、島や周囲の海域でしかみられない固有種も存在するようだ。

しかし、野生生物の楽園となっているこの島で最も幅を利かせているのは、毎年のように大発生を繰り返すハツカネズミたちだ。


今年も島の至るところで大繁殖

今年もファラロン諸島では、島の至るところでネズミが大繁殖している。本来島にネズミはいなかったが、19世紀に本土とあいだで人間の往来が盛んになった際に船で持ち込まれ、以来棲みつくようになった。

今では草木や昆虫などを我が物顔で食い荒らしており、生態系へのダメージは大きい。とくに植物では繊細な固有種ほど大きなダメージを受け、外来種がはびこる環境へと島は変化してしまった。また、ネズミの増殖に伴い、餌が競合するサンショウウオへの影響も懸念されている。

さらに、殖えすぎたネズミたちは格好のエサとなり、小型のフクロウであるコノハズクなどを島に呼び寄せている。ネズミたちの数が減少期に入るとコノハズクたちは食糧をなくし、代わりに貴重な海鳥の卵をついばみはじめる。ファラロン諸島の海鳥は人間による19世紀の乱獲から回復する途上だが、ネズミの大増殖によって間接的に阻まれている格好だ。

ロサンゼルス・タイムズ紙は、孤島での暮らしを謳歌するネズミたちの様子を、「全方位をオーシャンビューに囲まれながら、植物に昆虫、サンショウウオなどをピクニック気分で食べており、その勢いはまるで明日のことなど考えていないかのようだ」と表現している。

しかし、沿岸規制当局は12月16日、殺鼠剤を使用しての根絶プロジェクトを賛成多数で認可した。当局が対策に本腰を入れはじめたことで、「この原始的なげっ歯類たちに明日はないかもしれない」とロサンゼルス・タイムズ紙はいう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月

ワールド

米朝首脳会談、来年3月以降行われる可能性 韓国情報

ワールド

米国民の約半数、巨額の貿易赤字を「緊急事態」と認識
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中