最新記事

動物

サンフランシスコ沖でネズミ6万匹の大繁殖 ヘリ投入の根絶計画へ

2021年12月29日(水)15時26分
青葉やまと

殺鼠剤の空中投下プロジェクト

計画ではペレット状の殺鼠剤をヘリコプターで空輸し、計1.3トンをファラロン諸島に空中投下する。ベイエリアの地方紙『サンノゼ・マーキュリー・ニュース』によると、ネズミ以外に毒性が極力及ばないよう、海鳥の飛来数が少なくなる11月ごろを狙う計画だ。3週間の間隔を空けて2回に分け投下する。

並行して、その他の生物が殺鼠剤を食べないよう、島に住む研究者たちがサンショウウオやコノハズクなどを可能な限り捕獲し、数週間程度は安全な環境に収容しておく。対する本土側ではサンフランシスコ湾内に汚染生物が流れついた際に備え、当局がパトロールを強化するという。海を挟んで50キロに渡り展開する大規模な作戦だ。

計画に携わる魚類野生生物局はロサンゼルス・タイムズ紙に対し、「ハツカネズミを100%駆除することこそが、生態系回復への唯一の手段です。1組でも生き残ればプロジェクトは危うくなり、信じられないほどのスピードでネズミの個体数は元に戻ることでしょう」と述べ、殺鼠剤の散布の必要性を強調する。

しかし、殺鼠剤をもってしても個体数を一時的に減らすだけであり、完全な解決にはならないと指摘する研究者もいる。すでにカリフォルニア州はブロジファクムを使用した殺鼠剤の本土での使用を禁じており、海水汚染や殺鼠剤を含んだ動物の漂着による人間への影響を懸念する声も根強い。

島々の暗い過去

今でこそ豊かな生態系を育むファラロン諸島は、暗い過去を背負ってきた。16世紀にヨーロッパ人が到達する以前、現在のサンフランシスコ付近に住むネイティブアメリカンの人々は、島々を「死者たちの島」の名で呼んでいる。

荒々しく不気味な光景が嫌われ、島に亡者の霊が棲みついているとの信仰が生まれたようだ。また、現実的に船での接近が難しいことも危険なイメージを増幅した。現在の名称である「ファラロン」もスペイン語で「突き出た断崖」を意味し、厳めしい佇まいを象徴している。

19世紀には、この小さな島が殺人劇の舞台となった。当時高値で売れた海鳥の卵をめぐり、卵回収業者のあいだで小競り合いが頻発するようになる。最終的には銃撃による死者を出す事態にまで発展した。

さらにファラロン諸島周辺は、核の海域でもある。1940年代から70年までは実験に使われた放射性物質が島周辺の海に投棄された。1951年にはビキニ環礁原爆実験にも参加した沿海域戦闘艦インディペンデンスが廃船となり、積荷の放射性廃棄物ごと近海に沈められている。

それ以降は野生動物の保護区として穏やかな時間が島に流れていたが、ここ10年ほどで前述のようにネズミの急増問題が持ち上がった。殺鼠剤の空中投下が解決策となるか、はたまた新たな汚染問題の引き金となるのか、ベイエリアの市民は固唾を呑んで見守っている。

Plan to Drop Poison on Farallon Islands to Eradicate Mice Draws Criticism

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中