最新記事

中国スパイ

「消えた」香港人著名活動家は中国が仕掛けたハニートラップの犠牲者か

Chinese Honey Trap Rumor Fuels Hong Kong Paranoia As Activist 'Disappears'

2021年11月10日(水)19時03分
デービッド・ブレナン

ウォンはこうした見方を「馬鹿げている」と一蹴し、かつての活動家仲間を避けてなどいないと主張した。「私はいつだって連絡のつく状態だ。携帯電話は常に電源を入れてある。使うのをやめたのはフェイスブックだけで、それは個人的な理由から近況やニュースの共有をやめることにしただけだ」と彼は語った。

中国がイギリス国内に「侵入」していることを示す小さな痕跡は幾つかあるものの、大規模な諜報活動を裏づける具体的な証拠はほとんどない。

イギリス政府は5月、公務秘密法を改正する計画を発表。サイバー時代に合った内容に改定し、ロシアと中国による諜報活動に対抗する点に重点を置く内容に強化する方針を明らかにした。国内の外国勢力の影響力を把握し、介入や諜報活動を阻止するための枠組みの構築も提案された。

政府は諸外国の工作員の排除にも取り組んでいる。テレグラフ紙は2月、イギリス政府が国内でジャーナリストに扮して働いていた中国人スパイ3人を国外追放したと報じた。3人は中国国家安全部の工作員だったという未確認の報道もある。

海外で活動する中国の当局者や工作員は長年、国際社会による中国共産党批判を和らげようと試みてきた。中国政府は(香港の限定的な政治的自由の終わりを意味する)国家安全維持法について、適用範囲は国内にとどまらないと主張しており、実際に香港当局は既に、国外在住の反政府活動家に逮捕状を発行している。

中国の工作員による監視が最大の懸念

中国共産党が香港への取り締まりを強化したことを受けて、1月以降、約6万5000人の香港市民がイギリスに亡命を申請している。またイギリス政府は1月末から、新たな特別ビザの申請受付を開始した。1997年に香港がイギリスから中国に返還される前に生まれた、かつてのイギリス市民(すなわち「イギリス海外市民」のパスポートを持っている人々)が、イギリスへの長期滞在を申請できるようにする制度(BNO制度)だ。

実質的な市民権付与ともいえるこのBNO制度は、香港の民主活動家たちにとっての命綱だった。

だが中国の工作員たちが、この制度を悪用しようとしているという報告が複数ある。英内務省は本誌に対して、2021年に入ってからどれぐらい、こうした試みがあったのかを明らかにしなかった。

香港出身者を支援する団体「ホンコナーズ・イン・ブリテン」の創設者、サイモン・チェンは本誌に、イギリス在住の香港出身者が「最も懸念している」のは、「イギリス国内にいる中国共産党工作員による監視」だと語った。

ウォンが活動から身を引いたことをめぐり、「さまざまな噂があることは知っているし、そうした噂が自分の耳にも入ってきている」とチェンは本誌に語り、さらにこう続けた。「真相はよく分からない。中国の工作員が、著名活動家の元に女性を派遣してハニートラップを仕掛けるのは、十分にあり得ることだと思う。彼らならやるだろうとは思うが、それを立証するのは難しい」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「トランプ口座」は株主経済の始まり、民間拠出拡大に

ビジネス

米11月ISM非製造業指数、52.6とほぼ横ばい 

ワールド

EU、ウクライナ支援で2案提示 ロ凍結資産活用もし

ワールド

トランプ政権、ニューオーリンズで不法移民取り締まり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中