最新記事

ヒトの脳は3000年前に縮小した、その理由は......

2021年11月1日(月)17時21分
松岡由希子

ヒトの脳が進化史の過程で大きくなってきたことは広く知られているが...... Jolygon-iStock

<ヒトの脳は、更新世以来縮小していることについては、まだ十分に解明されていない......>

ヒトの脳が進化史の過程で大きくなってきたことは広く知られているが、更新世以来、これが縮小していることについては、まだ十分に解明されていない。脳のサイズが変化した時期やその原因は依然として謎のままだ。

米ダートマス大学やボストン大学らの研究チームは、ヒトの脳の進化の歴史的パターンを調べ、集団を形成して人間に似た社会的構造を備える社会性昆虫のアリと比較した。一連の研究成果は、2021年10月22日、オープンアクセスジャーナル「フロンティアーズ・エコロジー&エボリューション」で発表されている。

ヒトの脳は出現以来大きくなったが、約3000年前に縮小した

研究チームは、ヒトの脳の進化の時間的パターンを解明するべく、サヘラントロプス、アルディピテクス、アウストラロピテクスといった化石人類、前期更新世、中期更新世、後期更新世のヒト属、現生人類が属するホモ・サピエンスの頭蓋骨985個のデータを分析した。

その結果、ヒトの脳のサイズは化石人類のホモ・エレクトス(直立人)が最初に出現した約210万年前と更新世の約149万年前に大きくなったが、完新世に入った約3000年前に縮小した。

完新世で脳が縮小した原因については明らかになっていない。研究論文では「化石のみを用いてヒト属の歴史を詳しく解明するのは困難だが、アリをモデルとすることで、群の大きさや社会組織、集団的知性などの要因がヒトの脳の進化に与える影響について解明できるだろう」と新たなアプローチを提唱している。

集団認知や分業によって脳がより適した大きさに変化する

ツムギアリやハキリアリ、ヤマアリ属など、いくつかのアリの分岐群を対象に働きアリの脳の大きさや構造、エネルギー消費を計算モデルで分析したこれまでの研究結果では「集団認知や分業によって脳がより適した大きさに変化する可能性がある」ことが示されている。

これはすなわち、知識が共有されたり、個々が特定のタスクをそれぞれ専門とする社会集団では、脳のサイズが縮小するなど、脳がより効率的になるよう順応する可能性があることを意味する。

研究論文の共同著者でボストン大学のジェームズ・トラニエロ教授は「脳のサイズの縮小は集団的知性への信頼の高まりによるものではないか」との仮説を示す。今後、データを活用し、この仮説の検証をすすめていく方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

経済・金融見通し、極めて不確実 スイス中銀が警告

ビジネス

中国の年央最大商戦「618」、盛り上がりを欠いたま

ワールド

財政危機のバチカン、新教皇レオ14世の動画で献金呼

ビジネス

焦点:FRBは慎重姿勢、関税リスク巡る市場の不安消
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 6
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 7
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 8
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中