最新記事

中台関係

「台湾有事」というビジネスリスクを、企業はどう考慮しておくべきか

IS WAR INEVITABLE?

2021年10月16日(土)17時17分
サラ・シュイ
台湾軍の軍事演習

中国の武力侵攻を想定した台湾の軍事演習(2019年) Tyrone Siu-REUTERS

<アメリカと中国との対立がエスカレートするなか、中国に進出している外国企業は万が一の有事への備えを怠ってはならない>

貿易戦争では足りないかのように米中間の緊張は増す一方だ。そんななか、台湾をめぐる米中の武力衝突のリスクは従来になく高まっている。戦争に発展するわけではないが、リスク上昇の兆しはあり、企業は看過できない。

今年7月に行われた中国共産党の創立100周年式典。習近平国家主席は演説で、台湾との再統一は党の「揺るぎない任務」だと述べた。「われわれをいじめ、服従させ、奴隷にしようとする者を決して許さない。妄想した者は14億の中国人民が築いた鋼の長城にぶつかり血を流すことになる」

ただの脅しではなさそうだ。中国は4月、台湾周辺での軍事演習を「戦闘訓練」と表現。台湾のADIZ(防空識別圏)への侵入もエスカレートしている。6月末には日本の防衛省幹部が、中国とロシアがハワイを奇襲攻撃する恐れがあり、その証拠にロシアは太平洋で軍事演習を行っていると、アメリカに警告。一方、日米も台湾有事を想定した合同軍事演習を実施している。

米中貿易戦争が続くなか、米企業は報復関税によるコスト上昇に耐える一方、中国の生産・流通拠点への武力衝突の影響も検討する必要がある。中国が台湾占領を試みれば、台湾近海は戦艦や揚陸艦で埋め尽くされ、国際貨物の海上輸送ルートが封鎖・攻撃される恐れがある。厦門(アモイ)や福州など、外国企業が進出している主要な経済特区・開発区も巻き込まれる可能性が高い。

台湾海峡での衝突にとどまらず、台湾のミサイルシステムや米軍の爆撃機も使われる場合は、中国の沿海部や内陸部も危ない。広州から上海、青島まで中国東部沿海一帯が危険にさらされる。この一帯には珠江デルタや長江デルタなど経済開放区をはじめ、外国企業の生産拠点が集中している。内陸の南京や武漢なども攻撃される恐れがある。

生産拠点の一極集中は危険

中国に生産拠点を置く米企業には、生産・物流の急激なペースダウンが大きなネックになりそうだ。通常の経済活動が中断し、外国企業は早急に中国以外の国に生産拠点を移さざるを得なくなる。中国での生産はコロナ禍を上回る打撃を受け、武力衝突の影響は長引く可能性が高い。

米企業が米中貿易戦争と新型コロナウイルスのパンデミックで気付いたように、中国に匹敵する生産拠点はなかなか見つからない。中国はアジアのサプライチェーンと一体不可分で、高度なインフラと成長し続ける巨大市場を誇る。中国に代わる選択肢であるベトナムやタイといった国には中国並みの生産能力はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設

ワールド

ロシア経済、悲観シナリオでは失速・ルーブル急落も=

ビジネス

ボーイング、7四半期ぶり減収 737事故の影響重し

ワールド

バイデン氏、ウクライナ支援法案に署名 数時間以内に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中