最新記事

中国

恒大救済企業の裏に習近平の大恩人の影が

2021年10月14日(木)21時56分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

2011年には「広東客家(はっか)商会」が設立されたが、名誉顧問に葉選平と葉選寧が、名誉会長に朱孟依が就任していることからも、朱孟依と葉家の結びつきが如何に大きいかがわかる。

恒大集団問題のソフトランディングに苦心する習近平

習近平は葉剣英亡きあとの葉家(葉選平や葉選寧)に関しては感謝の念を忘れなかったのだろうか、わりあい頻繁に連絡を取ってきたという情報がある。

朱孟依と習近平との直接の接触があるか否かに関する情報はないが、葉家と習家の関係を知らない者は広東の上層部にはいないと言っていい。

したがって、このたび朱孟依の合生創展が恒大集団傘下の恒大物業の株を買い取ることによって債務危機にあえぐ恒大集団の一部救済に当たったことは、習近平からの(葉家を介した)何らかの連携があったものと考えることができる。

一方、広東省の国有不動産企業である広州城投が恒大集団の一部のプロジェクトを購入するといった噂は絶えないが、確実な情報ではない。

確かなのは、9月29日に遼寧省瀋陽市の盛京銀行が香港証券取引所で公告を出した内容だ

それによれば、恒大集団は盛京銀行の最大の株主だったのだが、その株の一部を瀋陽市国資委(瀋陽市人民政府国有資産監督管理委員会)に売り、その管轄下にある国有の瀋陽盛京金控投資集団が盛京銀行の20.79%の株(瀋陽市国有株全体としては29.54%)を占有し、筆頭株主になったとのこと。こうすれば、債務を抱える恒大集団の問題が民営の銀行にリスクを与える可能性が低まるので、いくらか安泰となる。

なぜ広東省の恒大集団が瀋陽市の国資委になのかという疑問が湧くかもしれないが、恒大集団は全国に手を広げており、たまたま盛京銀行に関しては株を持っており、おまけに筆頭株主だったので、それは良質な資産であるため売ることにもリスクがなかったことが理由の一つとして挙げられる。おまけに恒大集団は盛京銀行に債務もあったので、売却した利益で借金を返すこともできて、いくから安定したということができよう。

小さな一歩だが、こういった試みがあちこちで起きており、習近平としては何としてもソフトランディングをさせたいというところだろう。

恒大集団に限らず、不動産開発企業に対しては「救済しないが殺さない」を基本ルールにして、マンション購入者の大部分を占める中間層への打撃を最小限にし、暴動を起こさないように苦心しているのが習近平の現状だろう。

なお、中国の不動産バブルが「もう弾(はじ)けて、明日にも中国経済は崩壊する」と日本人が期待してから、すでに20年以上が経っている。

それでも不動産バブルが弾けないのは、ディベロッパーが融資を受ける銀行のほとんどが国有の商業銀行だからだ。国家が崩壊しない限り、ここはなかなか傾かない。それ以外には、至るところで「国資委」がセイフティネットとして受け皿になっているからである。

社会主義国家の強みと、それでも「人民の声」は怖い習近平という、二つの面を持ちながら、今日も中国の時間は動いている。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中