最新記事

中国

恒大救済企業の裏に習近平の大恩人の影が

2021年10月14日(木)21時56分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

その習仲勲を何としても政治復帰させなければならないと陰で動いたのは葉剣英だ。

葉剣英は広東省の出身で、広東省は古くからの葉家の地盤だった。

そこで葉剣英は、政治復帰した習仲勲を広東省に派遣してはどうかと提案した。  なぜならその代わりに、先妻の子である長男の葉選平を広東省に派遣して広東省の地盤を継がせたいと願っていたからだ。

習仲勲は1978年4月から広東省へ副書記として赴任し、のちに書記になっているが、1979年になると葉剣英は習仲勲に互いの息子に関する話をした。

この年、習近平は清華大学を卒業することになっており、本来ならば当時まだ残っていた卒業後の就職先を国が決める「分配制度」によって文革時代の下放先である陝西省延安市に戻らなければならないことになっていた。

しかし軍に力を持っていた葉剣英は、「軍歴」が重要だとして、習近平の就職先を中央軍事委員会常務委員兼秘書長である耿飈(こうひょう)の秘書室に決めてあげたのである。葉剣英は水面下で力を発揮して、1979年1月に耿飈を中央軍事委員会常務委員兼秘書長に昇進させていた。

この瞬間に現在の習近平の中共中央総書記、中央軍事委員会主席そして国家主席としての道が決まったと言っても過言ではない。

葉剣英と習仲勲は、習仲勲が築いた延安のある陝西省の革命根拠で1930年代に会い、ともに革命の事業を戦っている。耿飈もまた1936年頃、陝西省で習仲勲の世話になった経験があるので、習仲勲の息子を秘書にすることを喜んで同意した。

習仲勲が広東省に赴任し、再び北京に戻ってくる時に葉剣英の息子の葉選平も広東省に派遣され、葉剣英の地盤を受け継いだ。

葉家と朱孟依との関係

葉剣英は広東省梅州市生まれで、その息子の葉選平や葉選寧も朱孟依もまた同じ広東省梅州市生まれ。つまり葉家も朱孟依も「同郷」なのである。

中国は国土が広いので、どこの生まれかによって「同郷意識」による結束が強く、政治家として広東省の省長や中央の政治協商会議の主席にまで上り詰めていた葉選平と実業家として名を成した朱孟依は何かにつけて協力し合っている。

たとえば梅州市豊順県にある東留中学に対して、1998年に朱孟依が1200万元(約19億円)を寄付して改装した時には、校名を葉選平が書いている

また1992年に広東葉剣英研究会が設立されたときには、まだ33歳だった朱孟依が副会長を務めている。会員はほとんどが広東省政治協商会議や中国共産党広東省委員会や党校経験者によって占められていた。

研究会は学術団体なので資金を持っているわけではないが、前述の珠江投資集団を設立するときには「名義」を貸すことによって50%の株を所有している。それくらい広東では「葉剣英」の名前の価値は大きい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英、貿易協定に署名 スターマー首相「強さの証」

ワールド

トランプ米政権のDEI研究助成金停止、連邦地裁が差

ワールド

テヘランから全員直ちに避難を、トランプ氏投稿

ワールド

トランプ氏、イスラエルとイラン巡るG7声明に署名し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染みだが、彼らは代わりにどの絵文字を使っている?
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中