最新記事

エネルギー

再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機

EUROPE’S ENERGY LESSONS

2021年10月14日(木)18時13分
ブレンダ・シェーファー(民主主義防衛財団エネルギー問題上級顧問)
ガソリンスタンド

ガソリン供給が滞り、在庫切れで営業を止めたロンドンのガソリンスタンド(10月2日) HENRY NICHOLLSーREUTERS

<現在のエネルギー需給の逼迫を招いた原因は、再生エネルギーへの過剰投資とエネルギー地政学の軽視にあり>

エネルギー危機が世界中に広がっている。燃料価格の高騰や供給の不足に加え、停電も頻発している。アメリカでも一部の州は電力の安定供給に四苦八苦している。

こんな危機は数十年ぶりだから、誰もが不意を突かれた。エネルギーの供給が不安定になれば経済だけでなく安全保障にも環境にも、さらには公衆衛生にも甚大な影響が及ぶことを、みんな忘れていた。

エネルギーはどんな商品にも使われており、全ての商品価格に影響を及ぼす。エネルギーなくして製造業は成り立たず、その価格と供給の安定は一国の経済的競争力を維持する上で死活的に重要だ。また電気代と燃料費は国民生活に必須な支出項目であり、その急激な上昇は貧困層を直撃する。電力供給に不安があれば、政府機関やインフラも維持できない。エネルギー安保の重要性は明らかで、いわゆる国家安全保障と同等に扱われねばならない。

ヨーロッパを見るがいい。ガスや石炭、電気の価格が高騰し、スペインでは家庭用電気料金の値上げに抗議するデモが起きた。イギリスでは給油待ちのトラックが長蛇の列を成している。まるで1970年代のような光景だ。このまま天然ガスをはじめとするエネルギーの不足が続けば、ヨーロッパは暖房のない冬を覚悟しなければならない。

こうした惨状に、世界各国は学ぶべきだ。ヨーロッパはエネルギー市場の再編に知恵を絞り、多額の資金を投じてきたが、見るも無惨な状況に陥った。何が間違っていたのか。他国にとっての教訓は何か。

現実の複雑さを無視した議論

ヨーロッパのエネルギー問題をめぐる議論は、もっぱら再生可能エネルギー派と化石燃料派の対決という構図で行われてきた。これは文化戦争であり、後者は風力も太陽光も安定性を欠く(そもそもヨーロッパの大半の地域は日照が少ない)から、そんなものには依存できないと論ずる。逆に前者は、化石燃料は価格が変動しやすいし、ロシア産の天然ガスに依存することのリスクは大きいと指摘する。

だが現実はもっと複雑だ。エネルギー安全保障の実現には、市場原理と技術、政策、地政学のバランスを慎重に保つ必要がある。市場原理に委ねようとする右派の思想と、そうはさせまいとする左派の思想。そのせめぎ合いこそが今日のエネルギー危機につながった。

EUはエネルギー市場自由化の一環として、特定企業(ロシアのガスプロムなど)と固定価格で長期の供給契約を結ぶ方式をやめて、日々のスポット価格をベースにした契約に移行するよう促してきた。それは市場原理派の勝利を意味していたが、必ずしも安定供給と価格のバランスに関する綿密な分析を踏まえた上の判断ではなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダ新駐米大使に元ブラックロック幹部、トランプ関

ワールド

米大統領、史上最大「トランプ級」新型戦艦建造を発表

ビジネス

EXCLUSIVE-エヌビディア、対中輸出を2月に

ワールド

トランプ政権、大使ら約30人召還 「米国第一」徹底
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中