最新記事

再生可能エネルギー

ドイツで潰えたグリーン電力の夢

Power Shift

2018年10月19日(金)15時30分
ダニエラ・チェスロー

ドイツは今世紀半ばまでに電力の80%を再生可能エネルギーで賄うという野心的目標を掲げた Fabian Bimmer-REUTERS

<脱化石燃料・脱原発の野心的な目標をぶち上げたドイツだが、送電網の再整備が立ち遅れロシアの天然ガス頼みに>

今年8月の猛暑の日、ドイツ北部のバルト海沖に浮かぶリューゲン島に数百人のツアー客が集まった。お目当てはビーチではない。アルコナ洋上風力発電所が開催した「魅惑の洋上風力発電」展だ。

港には巨大な白いグラスファイバーのブレードが並んでいた。この長さ約75メートルのブレードは、約30キロ沖合にそびえる風力発電用タワー60基の上に設置されると、ガイドが説明した。2019年初めまでに発電量は385メガワットに達し、40万世帯分の電力を供給できるようになるという。

「わが社がここでやろうとしていることを一般の人たちに知らせて、『おお、すごい!』と言ってもらいたい」と、アルコナの幹部シルケ・ステーンは話す。

もっとも、ツアー客が港の別の場所に目をやれば、同じくらい壮大な人工物に気付いたはずだ。こちらは見学予定に入っていないが、港の一画にはコンクリートのコーティングを施した巨大な鉄鋼のパイプが積み重ねて並べてあった。

これらのパイプは、ロシアとドイツを結ぶ全長約1220キロの天然ガスのパイプライン「ノルド・ストリーム2」の一部として海底に敷設される。予定どおり来年に工事が完了すれば、既に稼働中のノルド・ストリームと合わせて現在の2倍のガスがロシアから輸送される。

皮肉にも積み出し港を共有するこの2つのプロジェクトは、再生可能エネルギーに懸ける夢と、ロシアのガス頼みという苦い現実の板挟みになったドイツの苦悩を物語っている。

「南北問題」がネックに

ドイツは10年、今世紀半ばまでに電力の80%を再生可能エネルギーで賄うという野心的な目標を掲げた。さらに翌年には日本の福島第一原子力発電所の事故を受け、22年までに「脱原発」を達成すると発表した。

ドイツはいち早く固定価格買い取り制度を導入(17年に入札制度に移行)するなど、個人や企業による太陽光と風力発電事業をテコ入れしてきた。おかげで1990年には電力比率の3・6%にすぎなかった再生可能エネルギー(風力、太陽、水力、バイオガス)が、発電量の3割超を占めるようになった。

しかし高邁なビジョンは、厳しい現実に突き当たった。世界屈指の工業国ドイツが脱化石燃料・脱原発に舵を切るのは容易ではなく、当初の予想以上にコストがかかり、政治的にも困難を極めた。結局、政府はエネルギー政策を見直して化石燃料への依存度を高め、気候変動対策で世界をリードする役目もある程度返上せざるを得なくなった。

MAGAZINE

特集:ニュースを読み解く 哲学超入門

2019-5・28号(5/21発売)

トランプ現象、移民、監視社会、SNS...... AIも解答不能な難問にあの思想家ならこう答える

人気ランキング

  • 1

    女性の体は、弱い精子をブロックする驚くほど洗練された方法を持っていた

  • 2

    パリで過熱する日本ブーム 300万人が訪れた「ジャポニスム2018」の立役者たち

  • 3

    利他の心に立つ稲盛和夫が活用する京都の日本庭園「和輪庵」

  • 4

    日本の正社員の給与の約半分は40~50代前半の社員に…

  • 5

    「作り物」のクイーン賛歌は、結局本物にはかなわない

  • 6

    アメリカの衛星が捉えた金正恩「深刻な事態」の証拠…

  • 7

    京都を愛したデヴィッド・ボウイが涙した正伝寺の日…

  • 8

    ロシア爆撃機がアラスカに接近、米戦闘機がインター…

  • 9

    「ディズニーパークに遺灰がまかれている」という都…

  • 10

    なぜ今アメリカの一部で「中絶禁止」が勢い付いてい…

  • 1

    29年前の「女子高校生コンクリート詰め殺人事件」の容疑者が再犯 少年法見直しの議論は海外にも 

  • 2

    「人肉は食べ飽きた」と自首した男と、とんでもない「仲間」たち

  • 3

    アメリカがイランを攻撃できない理由──「イラク侵攻」以上の危険性とは

  • 4

    「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はい…

  • 5

    トランプの言うことは正しい

  • 6

    ジョンベネ殺害事件で、遂に真犯人が殺害を自供か?

  • 7

    女性の体は、弱い精子をブロックする驚くほど洗練さ…

  • 8

    現代だからこそ! 5歳で迷子になった女性が13年経て…

  • 9

    元TBSアナ久保田智子:不良だった私が東大に入るまで

  • 10

    中国、キャッシュレス先進国ゆえの落し穴──子の借金…

  • 1

    徴用工問題で日韓が近づく危険な限界点

  • 2

    「英王室はそれでも黒人プリンセスを認めない」

  • 3

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、被害続発する事情とは

  • 4

    59歳の人気ランジェリーモデルは5年前まで普通のお母…

  • 5

    29年前の「女子高校生コンクリート詰め殺人事件」の…

  • 6

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 7

    「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はい…

  • 8

    現代だからこそ! 5歳で迷子になった女性が13年経て…

  • 9

    おどろおどろしい溶岩の世界!?木星の北極の正体が…

  • 10

    金正恩の「最愛の妹」身辺に異変か......「米朝決裂…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
広告営業部員ほか求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月