最新記事

中国

後退するアメリカーー米中首脳電話会談で「一つの中国」を認め、ウイグル問題を避けたバイデン

2021年9月11日(土)14時38分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

――ジョセフ・R・バイデン・ジュニア大統領は、本日、中華人民共和国の習近平国家主席と会談しました。両首脳は、広範かつ戦略的な議論を行い、我々の利益が一致する分野と、我々の利益・価値観・視点が異なる分野について議論しました。両首脳は、この2つの問題について、オープンで率直に取り組むことに合意しました。バイデン大統領が明らかにしたところによれば、この話し合いは米中の競争を、責任を持って管理するためにアメリカが進めている取り組みの一環である。

バイデン大統領は、インド太平洋および世界の平和・安定・繁栄に対する米国の永続性のある(辛抱強い)関心を強調し、両首脳は、競争が紛争に発展しないようにするための両国の責任について議論した。

バイデンは「一つの中国」原則を守ることを誓っている

米中両国の公式報道を見ると、ずいぶんと大きな違いがあることにお気づきだろう。

われわれ日本人にとって最も大きな関心があるのは「台湾の位置づけ」だ。

しかし中国側発表の「」にあるように、バイデンは習近平に対して、「アメリカは"一つの中国"原則を守ります」と誓ったことになる。

「一つの中国」原則を守るということは、この世に「中国」を代表する国家としては「中華人民共和国」しかなく、「台湾」は国家ではなくて、あくまでも「中華人民共和国の領土の一部に過ぎない」という位置づけになる。したがって中国が台湾をどのような形で「統一」しようとも、「他国」は「内政干渉はしません」ということを誓ったと同じことになるのである。

香港のように「一国二制度」を1997年の中国返還から50年間は保ちますよと関係国に誓ったというような条件や縛りはない。

事実上、1971年にアメリカが「中国」の代表として「中華人民共和国」を選び、当時の「中華民国」(現在の台湾)とは国交断絶して切り捨てるという道を率先して選んだだけのことだ。その結果「中華民国」は国連を脱退して「台湾」と呼ばれなければならなくなった。

上記の「」で示したバイデンの言葉<アメリカは一度も「一つの中国」政策を変えようと思ったことはない>は、中国が台湾に何をしようと、それは中国の自由で、アメリカが何か言うのは「内政干渉に相当します」と認めたことを意味するのである。

そのような大前提の下に、対中包囲網など形成できるはずもなく、バイデン政権の対中弱腰姿勢が透けて見える。

事実、今年2月8日のコラム<バイデン政権の本音か? 米中電話会談、「一つの中国」原則に関する米中発表の食い違い>に書いたように、2月5日にブリンケン米国務長官が中国の楊潔チ・外交トップと電話会談した時に、ブリンケンは明確に「米中関係は両国および世界にとって非常に重要だ。アメリカは中国とともに(協力しながら)安定的で建設的な両国関係を発展させていきたい」とした上で、「アメリカは今後も『一つの中国』政策を引き続き推し進めていき、かつ三つのコミュニケを必ず遵守していく。この政策に関するアメリカの立場は変わっていない」と繰り返し述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

2回目の関税交渉「具体的に議論」、次回は5月中旬以

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米国の株高とハイテク好決

ビジネス

マイクロソフト、トランプ政権と争う法律事務所に変更

ワールド

全米でトランプ政権への抗議デモ、移民政策や富裕層優
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中