最新記事

中国

後退するアメリカーー米中首脳電話会談で「一つの中国」を認め、ウイグル問題を避けたバイデン

2021年9月11日(土)14時38分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

また2月12日のコラム<米中首脳電話会談を読み解く――なぜ「とっておきの」春節大晦日に?>に書いたように、今年の春節大晦日に習近平と電話会談したバイデンは「中国は悠久の歴史を持つ偉大なる文明の国家であり、中国人民は偉大なる人民である。米中両国は衝突を避けなければならない」とした上で、「アメリカは喜んで中国とともに、相互尊重の精神に基づき、率直で建設的な対話を続け、誤解や誤判断を避けるべく相互理解を深めていく」と言っている。

だから、どんなに日本などの同盟国に呼び掛けて対中包囲網を形成しようとなどしても、言行不一致で信用できないのである。

後退するアメリカ――今回はウイグル・香港問題などに言及していない

前述の<バイデン政権の本音か? 米中電話会談、「一つの中国」原則に関する米中発表の食い違い>に書いたように、ブリンケンは今年2月5日の電話会談のときには、明確に中国側に対して「新疆ウイグル自治区やチベット自治区および香港を含めて、アメリカは人権問題と民主的価値を支持し続ける」と強調している。

同様にバイデンは前述のコラム<米中首脳電話会談を読み解く――なぜ「とっておきの」春節大晦日に?>に書いたように、バイデンは「北京政府の強圧的で不公正な経済慣行、香港での取り締まり、新疆ウイグル自治区での人権侵害、台湾を含む地域でのますます強まる独断的な行動について強い懸念を抱いている」と強調している。

しかし今回はウイグル問題も香港問題も口にしておらず、明らかに対中姿勢としては後退していることが見て取れる。

これは「もし可能なら10月に開催されるG20では会ってね」というお願いのためであり、もう一つはアフガニスタンにおける米軍撤退の失敗を言われたくないからだろう。

なんとも情けないではないか。

このような状況の中で、もし日本の次期自民党総裁が(内心)親中派であり、次期衆院選で自公が勝って野党が負けるとすれば、日本は親中派の人物が首相となることになり、米中総崩れになる危険性を孕んでいるのではないかと憂う。

もっとも、野党の対中姿勢を聞いたことがないので、衆院選までには明示してほしいと思ってはいるが...。

追記:冒頭の時事通信社の記事は、その後、内容もURLも変更したらしく、リンク先の記事が無くなっている。元のままにする。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕

ビジネス

香港GDP、第1四半期は前年比+3.1% 米関税が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中