最新記事

サイエンス

損傷したDNAの修復プロセスを可視化することに成功

2021年9月8日(水)18時30分
松岡由希子

大腸菌を用いて、二本鎖DNAが修復されるプロセスを直接視覚化することに成功 Illustration of the RecA filament. Photograph: David Goodsell

<長い間謎だった損傷したDNAが修復されるプロセスを直接視覚化することに成功した>

私たちの体内ではDNA損傷が頻繁に起こっている。DNA損傷を修復する力がなければ、紫外線や活性酸素(ROS)に対して脆弱となり、がんを発症するリスクが高まる。DNA損傷を速く正確に修復できるか否かは、多くの生物にとって重要な問題だが、DNAシーケンスにおいてミスなくDNAを修復することは難しく、鋳型となるものが必要だ。

二本鎖DNAを正確に修復する手法として、姉妹染色体(複製による親の完全なコピーの染色体)を鋳型として用いる「相同組換え(HR)」が知られているが、姉妹染色体は数百万もの遺伝暗号の塩基対で複雑な構造をなしており、一連のプロセスについてはまだ完全に解明されていない。

現時点では、相同組換えタンパク「RecA」が、損傷した塩基配列と同じ塩基配列を持つ相同領域を検索するうえで重要な役割を担っていると考えられている。

大腸菌で、二本鎖DNAが修復されるプロセスを直接視覚化

スウェーデン・ウプサラ大学の研究チームは、大腸菌を用いて、二本鎖DNAが修復されるプロセスを直接視覚化することに成功し、その研究成果を2021年9月1日、学術雑誌「ネイチャー」で発表した。

研究チームは、培養用マイクロ流体チップで細胞を増殖させ、ラベル化した「RecA」分子を蛍光顕微鏡で追跡することによって、相同組換えの一連のプロセスを可視化した。

また、ゲノム編集技術「CRISPR」を用いてDNA切断を時間内に制御した。その結果、一連のプロセスは平均15分で完了し、「RecA」が検索に要する時間は9分足らずであることがわかった。

腫瘍増殖の原因の解明にも役立つ可能性

また、蛍光顕微鏡を用いて損傷箇所をリアルタイムで観察したところ、「RecA」の細いフィラメントが細胞の長さにまで及んでいた。これによって、フィラメントのあらゆる部分で相同領域を見つけ出すことができ、検索が理論上、三次元から二次元になる。研究チームは、「これこそ、相同組換えを速くうまく行うキーポイントだ」と考察している。

今回の研究では大腸菌を用いたが、相同組換えのプロセスはヒトをはじめとする高等生物もほぼ同一だ。多くのがん遺伝子はDNA修復と関連しており、一連の研究成果は腫瘍増殖の原因の解明にも役立つ可能性があるとみられている。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、EU産ブランデーに最大34.9%関税 主要コ

ビジネス

TSMC、熊本県第2工場計画先延ばしへ 米関税対応

ワールド

印当局、米ジェーン・ストリートの市場参加禁止 相場

ワールド

ロシアがウクライナで化学兵器使用を拡大、独情報機関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中