最新記事

スターリンク

イーロン・マスクのスペースX、宇宙で毎週1600件のニアミス事故

2021年8月25日(水)19時00分
青葉やまと

夜空に連なるスターリンク衛星 ViralVideoLab-YouTube

<大量の人工衛星により、安価で高速なネット環境を整える計画だが...>

革新的な民間ロケット開発で知られるイーロン・マスク氏のスペースX社で、もうひとつの野心的なプロジェクトが進行している。大量の衛星によって地球全域に高速な通信網を整備する、「スターリンク計画」だ。

スターリンクは地上の敷設ケーブルに頼らず、衛星経由でインターネット網を提供する。これにより同社は、アラスカなどの極地も含めた広い地域に、安価かつ高速な通信回線をもたらすとしている。

2019年11月から「Better than Nothing Beta(あるだけましなベータ版)」と銘打ったテストプログラムが一部地域で展開しており、契約者は月額99ドルで衛星ブロードバンドを利用可能だ。これまでに世界で9万人が利用しており、事前契約も含めるとユーザー数は延べ50万人を数える。

通信の強化に向けて同社は、第2世代スターリンク衛星の打ち上げを現在計画中だ。従来よりも高い発電能力を持つ大型版となり、同社ネットワークの今後の拡張に対応するほか、他社向けの通信モジュールを収容可能になる。米CNBCの報道によると、高度340キロから614キロまでの軌道上に、実に2万9988基を投入する計画だ。

スターリンク計画


まるで星座 軌道にひしめく無数の衛星

スターリンクは最終的に5G通信網並みの高速通信を目指しており、体感速度を左右するレイテンシ(遅延)も20ミリ秒と短いのが特徴だ。低遅延は、衛星の高度が低く地表との距離が近い低軌道衛星ゆえのメリットだ。

一方、低高度を飛ぶ非静止衛星であるがために、多数の機体の投入が欠かせない。ひとつの衛星はユーザーの頭上を短時間で通り過ぎてしまうため、複数の衛星間でハンドオーバー(引き継ぎ)を行うことで通信を維持する。このように多数の衛星の連携によって成立する通信網は、星座を意味する「コンステレーション」とも呼ばれる。

STARLINK satellites train seen from earth - SpaceX Elon Musk


スペースXは衛星コンステレーションの実現のため、これまでにおよそ1700基のスターリンク衛星を打ち上げてきた。しかし、低軌道にひしめく多数のスターリンク衛星は、他の衛星事業者の頭痛の種になりはじめている。

その原因は、頻発する近接事故だ。スペースデブリ(宇宙ごみ)問題の権威である英サウサンプトン大学のヒュー・ルイス教授は、スターリンク衛星と他の衛星あるいは宇宙船との近接インシデントが非常に多く発生していると指摘する。その数は週あたり1600件にも達するといい、全近接インシデントの半数を占める計算だ。

大半はスターリンク衛星同士の近接だが、他の衛星事業者が運用する機体との近接も週に500件ほど発生している。監視のみで済むケースが多いものの、危険水準にまで接近するケースも最大で週に10件ほど発生しており、相手側の衛星事業者は回避のための軌道操作(マヌーバ)を余儀なくされている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金与正氏、日米韓の軍事訓練けん制 対抗措置

ワールド

ネパール、暫定首相にカルキ元最高裁長官 来年3月総

ワールド

ルイジアナ州に州兵1000人派遣か、国防総省が計画

ワールド

中国軍、南シナ海巡りフィリピンけん制 日米比が合同
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中