最新記事

スターリンク

イーロン・マスクのスペースX、宇宙で毎週1600件のニアミス事故

2021年8月25日(水)19時00分
青葉やまと

将来は近接の大半にスペースXが関与か

近い将来、問題はさらに悪化する公算が高い。スペースXは第1世代として1万2000基、第2世代も含めると約3万基によるネットワークを想定しており、現時点での数はその6%に過ぎない。事態を報じる英デイリー・メール紙は、第1世代の配備が完了すれば、近接インシデントの9割がスペースX関連となるとの試算を報じている。

宇宙開発の進展に伴い、宇宙ごみはすでに深刻な問題となっている。アメリカの宇宙監視ネットワークはレーダーと光学によって軌道上の衛星とデブリを追跡しているが、監視対象は10センチ角以上の物体だけで3万個に及ぶ。小規模なものも含めると、50万個のデブリが現在地球を周回している。

あまりの数に、専門企業による追跡も限界に達しつつある。宇宙空間の交通管制サービスを提供する米ケイハーン・スペース社のシーマック・ヘザーCEOは、米宇宙情報サイトの『Space.com』に対し、「この問題はまさに制御不能の域に達しつつあります」と懸念を示している。

Space Debris-ESA


過去には深刻な事故も

ひとたび衛星の衝突事故が起きれば大量の宇宙ごみを撒き散らし、他の衛星に深刻なダメージを与えかねない。広大な宇宙空間での衝突はあり得ないようにさえ思えるが、大規模な事故は実際に起きている。

2009年には米イリジウム・コミュニケーションズ社のコンステレーション衛星とロシアの軍事衛星が衝突し、史上最悪のインシデントとしてのちに知られることとなった。高度約800キロで衝突した2基は大きな破片だけで1000個以上を撒き散らし、その後も同エリアを通過する他の衛星に損傷を与えている。これとは別に、今年3月には中国の雲海1号02星が突如崩壊したが、原因はスペースデブリとの衝突であったことが今月に入って判明している。

スペースXとしても予防策に無関心なわけではない。同社はスターリンク衛星の電源と推進システムを多重化し、安全性を確保していると説明している。緊急時にはスターリンク側での回避操作も可能であろう。

しかし、ケイハーン社のヘザーCEOは、一般的に回避操作は衛星の貴重な推進剤を消費することから、頻繁に行うことはできないと指摘する。衛星の位置測量システムには誤差があるため、衝突の警告はある程度の余裕をもって発せられる。オペレーターは衝突の危険度と人的リソースの状況、そして推進剤の消費を天秤にかけ、実際には回避操作を行わないという判断を下すことも多々ある。

格安かつ高速ネット環境を標榜するスターリンクだが、大量の衛星投入によって事故のリスクは着実に増大している。その代償は将来、同社にとって想定外に高くつくかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀は8日に0.25%利下げへ、トランプ関税背景

ワールド

米副大統領、パキスタンに過激派対策要請 カシミール

ビジネス

トランプ自動車・部品関税、米で1台当たり1.2万ド

ワールド

ガザの子ども、支援妨害と攻撃で心身破壊 WHO幹部
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中