最新記事

テロリスクは高まるか

タリバンの思想は農村では「当たり前」? カブール市民が震え上がる「恐怖政権」の正体

THE MYSTERY OF TALIBAN RULE

2021年8月31日(火)17時50分
貫洞欣寛(ジャーナリスト)

タリバンには、2つの思想的基盤がある。復古的なイスラム解釈と、タリバンの大勢を占めるパシュトゥン人の伝統的な価値観だ。パシュトゥン人とは、多民族・多宗教国家のアフガニスタンで人口の4割強を占める民族であり、同国では東部に多い。

19世紀末に大英帝国が民族分布を無視してアフガニスタンとパキスタンの間に境界線を引いたため、パキスタン西部にもパシュトゥン人地域が広がる。住民だけでなくタリバンのような勢力も、簡単に国境を越え行き来してきた。

アフガニスタンの農村社会では、男性優位の家父長制的な秩序が続いてきた。政府の力は地方まで届かず警察や行政が頼りにならない。人々をつなぐのは地縁、血縁、そして部族の輪だ。もめ事が起これば、部族長や村の長老ら男性陣が話し合う。

女性の役割は、家事と子育てに専念すること。自由恋愛などもってのほか。部外者を容易には信用せず、自衛意識が高い。一方、「客人」と一度認めれば、とことん大切にする義理堅さもある。

平たくまとめれば、こういうことになる。「女子供は家にいろ。結婚は家と家の問題だから相手は親が決める。何か起これば男衆と若衆が村を守る。物事は男衆の寄り合いで決める。客人は客間に通してもてなす。ただし台所には入れない」。私には、かつての日本の農村社会の価値観と大きな違いはないと思える。

そこに、復古的なイスラム解釈というもう1つの思想的な流れがある。

神の啓示が預言者ムハンマドに下ったのは7世紀。その後、各種の解釈や類推が積み上がり、多様な学派が生まれた。これらを離れ、教えを文字どおり受け止めて再現することを「シャリーアが支配するイスラム社会の実現」と考える流れだ。サウジアラビアなどで力を持ってきた。

79年のソ連軍のアフガニスタン侵攻以降、サウジアラビアはパキスタンやアフガニスタンへの支援を強化。難民キャンプなどに私立のマドラサがつくられ、そこにサウジアラビアなどからの資金と共に復古的なイスラム解釈が入った。

タリバンの創始者オマルは、世俗政府の打倒と既存の国境を超えた汎イスラム主義を訴えたパレスチナ出身のイスラム思想家アブドゥラ・アザム(1941〜1989)の影響を受けている。アザムはサウジアラビアの大学で教鞭を執り、ウサマ・ビンラディンの「師」となったことで知られる。

そしてタリバンは、母国サウジアラビアを追われたビンラディンを「客人」として受け入れた。客人ビンラディンは、タリバンの保護下で01年の米同時多発テロを計画した。さらに、隣国アフガニスタンに自国の影響下にある政権をつくりたいと考えるパキスタン情報機関も、タリバンを陰に陽に支援した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中