最新記事

アフガニスタン

タリバン政権のテロ復活抑止に関する米中攻防――中露が「テロを許さない」と威嚇する皮肉

2021年8月18日(水)19時44分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

ここで、王毅が言うところのトランプ政権が「東トルキスタン・イスラム運動のテロ組織としての認定を解除する」と発表したことに関して説明を加えたい。

2020年11月6日、当時のトランプ政権のポンペオ国務長官は「中国がウイグル弾圧の口実としている東トルキスタン・イスラム運動なる組織は10年以上前から存在していないので、東トルキスタン・イスラム運動をテロ組織認定リストから解除する」と宣言している

ブリンケンはそれに対して「アメリカは、あらゆる形のテロリズムに反対することを再確認し、中国の西部国境(=新疆ウイグル自治区)での動乱を求めない。 アフガニスタンの状況の変化は、地域の安全保障問題における米中協力の建設的かつ実用的なアプローチの重要性を改めて示している」と応じている。

テロ活動の存在の有無に関する米中主張の矛盾と攻防

上記の王毅・ブリンケン電話会談は、以下のような米中間の主張の矛盾と攻防を浮き彫りにしている。すなわち、

アメリカ:テロ組織はもうないので、中国はそれを口実にウイグル弾圧を正当化してはならない。

中国:テロ活動はまだ潜んでいるので警戒し、徹底して抑え込まなければならない。

今タリバンがアフガニスタンで勝利し、これからタリバン政権が誕生しようというときに、これまでのアメリカの主張と中国の主張が、国際世論「タリバンがテロ活動を復活させるのではないのか」を巡って複雑に交錯している。

中国の強みは経済復興によりテロ活動を抑えること

このような中、中国はあくまでも、「アフガニスタンを経済復興させなければ、必ずテロの温床を生む」として、経済支援と投資をタリバンに約束している。

そこには「一帯一路」強化につながるだけでなく、紛争の地、アフガニスタンに長い間眠り続けてきた「豊富な地下資源の開発」にまで手を伸ばそうという狙いが潜んでいる。

中国にとってタリバンのテロを抑え込むのは、ウイグル弾圧を正当化できるだけでなく、中国のさらなる経済繁栄への道をも約束してくれる「おいしい選択」なのだ。

人権と言論を弾圧する中国が、テロ活動を抑え込み、40年間続いてきたアフガン紛争で荒れ果てたアフガニスタンの経済発展を成し遂げることができるとしたら、何という皮肉であろうか。

中国にここまでの経済力をつけさせてきた日米の責任は、暗く、重い。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ南部ザポリージャで29人負傷、ロシア軍が

ビジネス

シェル、第1四半期は28%減益 予想は上回る

ワールド

「ロールタイド」、トランプ氏がアラバマ大卒業生にエ

ワールド

英地方選、右派「リフォームUK」が躍進 補選も制す
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中