最新記事

コロナワクチン

副反応が何もないとワクチンが効いていない?

HOW VACCINES WORK

2021年6月11日(金)16時15分
ロバート・フィンバーグ(マサチューセッツ大学医学部教授)
コロナワクチン接種

一部の人に副反応が出るのは想定内だが重篤な例はごく少数 HANNAH BEIER-REUTERS

<ワクチンと免疫と副反応はどんな関係にあるのか。接種直後の体調不良とワクチンの実際の作用はどう違うのか。感染症と免疫学の専門家が解説する>

新型コロナウイルスのワクチン接種を受けた後に、頭痛やちょっとした体調不良──。「これは免疫システムがよく働いている証拠だろう」と人々が口にしているのをよく耳にする。反対に、副反応が何もないとワクチンが効いていないのでは、と心配する人もいるようだ。

目に見える副反応は、体内の細胞レベルで起きていることと何か関係があるのだろうか。自覚できる症状とは何か。ワクチンの実際の作用とはどう違うのか──感染症と免疫学の専門家が解説する。

ワクチン接種と体の働き

人間の免疫システムは、ワクチンという「異物」に対して、2つの異なるシステムを介して反応する。

最初の反応は、自然免疫応答(自然免疫)と呼ばれるもの。このシステムは、病原菌やウイルスなど病原体が体内に侵入したことを細胞が検知すると、すぐに活性化する。その目的は、侵入者を排除すること。好中球と呼ばれる白血球とマクロファージが侵入者の元に行き、破壊を試みる。

この第1の防衛線は比較的「短命」で、持続期間は数時間から数日だ。

第2の防衛線は活性化に数日から数週間を要する、より持続期間の長い適応免疫応答(獲得免疫)だ。このシステムでは、免疫システムのT細胞とB細胞が特定の侵入者(例えばコロナウイルスのタンパク質など)を認識することを学習する。この学習(免疫記憶)によって、数カ月後あるいは数年後に同じ侵入者と再び遭遇した場合に、相手を倒すための抗体が生成される。

新型コロナウイルスワクチンの場合、ウイルスに対する長期的な保護をもたらす適応免疫応答が起きるまでには、約2週間の時間がかかる。ワクチン接種から1~2日以内に気付く症状は、自然免疫応答の一部。体内に侵入してきた異物を迅速に排除するための、体の炎症反応だ。

人によってその程度に差はあるが、当初の反応の激しさが必ずしも、長期的な反応と関連しているわけではない。新型コロナウイルスの2つのmRNAワクチンの場合、接種を受けた人の90%以上が適応免疫応答を獲得したのに対して、副反応があった人は50%を下回り、そのほとんどが軽いものだったことが分かっている。

自分の体にどれだけ強力な適応免疫応答が獲得されつつあるのか、全く分からない可能性もある。

結論を言えば、ワクチンが体内でどれだけ順調に効果を発揮しているのかは、目に見える形では分からない。ワクチン接種による免疫反応が比較的強い人と弱い人がいるが、接種直後の副反応の有無でそれを判断することはできない。ワクチンによる免疫獲得を手助けするのは後から起きる適応免疫応答であり、接種直後の炎症反応ではないからだ。

副反応とは何か

副反応とは、外来物質(異物)を注射したことに対する正常な反応だ。発熱や筋肉痛、注射部位の違和感などがあり、自然免疫応答によって引き起こされる。

体内の好中球やマクロファージがワクチンの分子を検知し、サイトカイン(発熱や悪寒、倦怠感や筋肉痛を引き起こす分子シグナル)を作り出す。外来異物が体内に注入された後には必ず、このサイトカイン反応が起きることが予想される。

被験者に対して無作為にmRNAワクチンまたはプラシーボ(偽薬)の注射をした複数の研究では、新型コロナウイルスのワクチンを接種した16~55歳の被験者の約半数が、2回目の接種後に頭痛を発症した。

この反応はワクチンと関連がある可能性もあるが、プラシーボのみを接種した被験者の4分の1も頭痛を発症した。つまり、ごく一般的な症状の場合、ワクチンが原因なのかどうかを判断することは非常に難しい。

一部の人にワクチンの副反応が出るのは想定内のこと。それに対して、「有害事象」と呼ばれるものがある。医師たちがワクチン接種の結果として予想していないもののことで、臓器不全や体の一部への深刻なダメージが含まれる。

アメリカがジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンの流通を一時停止するきっかけになった血栓は極めてまれな事象で、頻度は100万回に1回程度。確実にワクチンによって引き起こされたのかどうかは依然調査中だが、それでも血栓が実にまれな副反応であることは確かだ。

ワクチンのどの成分が副反応を引き起こすのか

ファイザーとモデルナのワクチンの「有効成分」は、体内の細胞に対してウイルスタンパク質の形成を指示するmRNAのみだ。だがワクチンには、mRNAが体内を移動するのを手助けするための、そのほかの成分も含まれている。

ワクチン中のmRNAが、接種を受けた人の細胞に入って働けるようにするには、元来はそれを破壊する役目を果たす体内の酵素をうまく避けなければならない。そこで研究者たちは、ワクチン中のmRNAを脂質の膜で覆って保護し、破壊されずに済むようにした。アレルギー反応を引き起こす可能性があるのは、この脂質の膜の一部であるポリエチレングリコールなど、ワクチンの中に含まれているmRNA以外の成分だと考えられる。

ワクチン接種後の体調不良は強い免疫が獲得された証拠?

自然免疫応答と長期的な反応(適応免疫応答)の間に何らかの関係があることは、明らかになっていない。ワクチン接種でよりはっきりした副反応があれば、新型コロナウイルスからより強力に守られるという科学的な証拠はない。

前述したように、アメリカで承認されている2つのmRNAワクチンはいずれも、接種を受けた人の90%以上に防御免疫をもたらしたが、ワクチンに対するなんらかの副反応が報告された人は50%に満たない。さらに、重篤な副反応があった人はごく少数だ。

The Conversation

Robert Finberg, Professor of Medicine, University of Massachusetts Medical School

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 台湾有事 そのとき世界は、日本は
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月26日号(8月19日発売)は「台湾有事 そのとき世界は、日本は」特集。中国の圧力とアメリカの「変心」に強まる台湾の危機感。東アジア最大のリスクを考える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア決算に注目、AI業界の試金石に=今週の

ビジネス

FRB、9月利下げ判断にさらなるデータ必要=セント

ワールド

米、シカゴへ州兵数千人9月動員も 国防総省が計画策

ワールド

ロシア・クルスク原発で一時火災、ウクライナ無人機攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 4
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 5
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 6
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    株価12倍の大勝利...「祖父の七光り」ではなかった、…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 10
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中