最新記事

中東

エジプト、ガザ停戦仲介で存在感見せる 米バイデン政権との関係も前進

2021年6月1日(火)11時28分
エジプトのシシ大統領

エジプトは、イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの停戦仲介に尽力し、その外交面の存在感は、イスラエルと国交正常化を進めている幾つかのアラブ諸国を圧倒した。写真はエジプトのシシ大統領。パリで昨年12月、代表撮影(2021年 ロイター)

エジプトは、11日間にわたって激しい戦闘を交えたイスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの停戦仲介に尽力し、その外交面の存在感は、イスラエルと国交正常化を進めている幾つかのアラブ諸国を圧倒した。

さらに人権問題でぎくしゃくするバイデン米政権との関係改善に苦労していたエジプトにとって、停戦仲介は同国と米国の風通しが再び良くなるという「成果」をもたらしてくれた。

これまでのイスラエルとパレスチナの紛争でもエジプトは仲介役を務めてきた。ただ専門家や外交官によると、今回は近年よりも目に見える形の取り組みが特徴だ。停戦から1週間が経過する中で、エジプトの安全保障当局者はテルアビブとパレスチナ自治区を何度も往復。何人かの同当局者は、31日の週にはハマス最高指導者のイスマイル・ハニヤ氏を含めたパレスチナ側の人物がカイロを訪問し、停戦のさらなる枠組み強化を進める予定だと明かした。

ハマス高官の1人はロイターに「エジプトと(同国の)シシ大統領の(停戦に向けた)より積極的な努力が、11日間の戦闘を通じて鮮明になった」と述べた。

ハマスのルーツはエジプトで違法認定されて徹底的な取り締まりの対象である「ムスリム同胞団」だが、エジプト政府はハマスとの間にしっかりした情報網を確立している。ある外交官は、エジプトがシナイ半島-ガザ間の国境における安全保障を重要視している以上、ハマスの対応は「非常に現実的」なものだと解説した。

アブラハム合意

エジプトに比べて、他のアラブ諸国がガザ地区の停戦実現に向けて果たした役割は限定的だった。そうした国には、エジプトと同じく数十年前にイスラエルと平和条約を結び、パレスチナと国境を接しているヨルダンや、ガザ地区に金融支援を提供していたカタールなどが含まれる。

事態の沈静化を呼び掛けたアラブ首長国連邦(UAE)も影は薄かった。同国は、トランプ前米政権が主導したアラブ諸国とイスラエルの国交正常化のための平和協定「アブラハム合意」に真っ先に署名。その後バーレーン、スーダン、モロッコが加わったこの協定成立で、エジプトの中東地域における影響力が弱まるのではないかとの観測が浮上した。だが今回のガザ地区の戦闘を巡ってアラブ社会でパレスチナへの同情が急速に高まるとともに、これらの署名4カ国は実に難しい立場に追い込まれたのだ。

米シンクタンク、アラブ・ガルフ・ステーツ・インスティテュートのクリスティン・スミス・ディワン氏は、イスラエル・パレスチナ間が公然と衝突した中で消極的行動に終始したアブラハム合意署名国が、イスラエルの振る舞いをいかにコントロールできないかが浮き彫りになったと指摘した。

UAE外務省は、同国がイスラエルに戦闘行動の自制を実際に働き掛けたかどうかについてコメントを拒否した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中