最新記事

新型コロナウイルス

ワクチンが怖い人にこそ読んでほしい──1年でワクチン開発ができた理由 

2021年6月29日(火)11時00分
新妻耕太(スタンフォード大学博士研究員)※アステイオン94より転載
新型コロナウイルスワクチン開発

写真はイメージです janiecbros-iStock.


<「知らないから怖い」ことによって、ワクチン忌避が起こる。正確でフェアな情報を共有するには何ができるのか? 論壇誌「アステイオン」94号「新型コロナウイルスワクチン事情」より>

通常、ワクチン開発には10年かかる

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生から1年以上が経過した。筆者が住むアメリカでの死者数は世界最大で、すでに50万人以上の命が失われている(編集部注:2021年6月現在では60万人を超えている)。

この凄惨な状況の中、アメリカでは人々の予想を上回る早さで安全性と効果の高い新しいワクチンの開発に成功し、3月中旬時点で国民の2割(7000万人以上)が少なくとも1回のワクチン接種を済ませた(編集部注:2021年6月現在では1億7734万人、人口の53.9%が1回目完了)。日本でも医療従事者に対するファイザー・ビオンテック社のmRNAワクチン接種が開始され、1カ月ですでに約50万人が少なくとも1回の接種を終えた(編集部注:2021年6月現在では2401万人、人口の19.1%が1回目完了)。

ワクチンは集団免疫を成立させて感染症にかからないようにする、もしくはかかっても重症化を防ぐ効果のある予防薬である。通常1つのワクチンが開発されるには約10年の期間がかかるといわれてきたが、最初の新型コロナウイルスワクチンは新技術を使用したことでわずか1年で開発された。なぜ、それが可能だったのか。

新型コロナウイルスは複数のタンパク質・タンパク質の設計情報を記録する遺伝情報物質(RNA)・脂質の膜の3点セットでできている。ウイルスは我々の体の中で大量に増えるのだが、実のところウイルスは自分の力だけで増えることができず、我々の体を構成する細胞の中に侵入して、そのシステムをハッキングして増えている。

細胞内への侵入には表面にあるトゲの構造体(スパイクタンパク質)をドアのロックを外す鍵のように利用するのである。増えた大量のウイルスが細胞外へと脱出する時に細胞は破裂するようにして死ぬ。これが繰り返されることで組織に障害が起きて様々な症状を呈する。

一方、ウイルスの感染に対して私たちの体は免疫システムで対抗する。免疫とは病気から体を守るシステムのことを指す(疫〔感染症〕を免れるが語源)。〝二度がかりなし〞が免疫システムの代表的な特徴で、おたふくや水ぼうそうに一度かかれば二度とかからなくなるのは免疫システムに記憶機能がついているためである。免疫細胞は私たちの体を守るいわば軍隊のような存在で、二隊構成になっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中