最新記事

中国

インド製ワクチン輸出停止で、中国のワクチン外交加速 強まる警戒論

2021年5月13日(木)18時10分
青葉やまと

東南アジアでは、中国と領土問題で対立するフィリピンさえもが、インドの禁輸によって中国製ワクチンへの舵切りを迫られている。シノバック社から供給を受けられるよう交渉中だが、これにより外交上の立場が制限される可能性は否めない。

中国はすでに2億4000万回分に上るワクチンを世界に輸出しており、今後さらに5億回分を出荷する用意があるとしている。ブルームバーグは、WHOのお墨付きを得ることで「中国ワクチンの防潮堤を解き放つ」結果になりかねないと危惧する。

ワクチン自体の品質も手放しで喜べる水準にはない

あからさまなワクチン外交に眉をひそめる向きに加え、さらに問題なのがワクチン自体の品質だ。臨床データの透明性が不足しており、有効率に疑念が残る。

大前提として、シノファーム並びにシノバック製ワクチンは不活化ワクチンに分類される。感染力を奪ったウイルスを接種し、人体の免疫を誘導する方式だ。新型コロナ以前にも多数の利用実績があることから予期せぬ副作用のリスクが少ない反面、有効性は基本的にmRNAワクチンに劣るとされる。

これに輪をかけて、中国側が発表するデータには不整合が見られるのが現状だ。米CNNは今年1月、ブラジル当局による検証結果を報じている。シノバック社は当初ワクチンの有効率を78%としていたが、ブラジルでの臨床試験の結果は50.38%であった。欧米のmRNAワクチンは95%前後の有効率を示しており、これと比較しても大幅に低い数字だ。

CNNは「以前示されていた結果よりもあからさまに低い」数字であり、「データの正確性に対する疑問を呼び起こすと同時に、中国ワクチンの明らかな透明性欠如への疑念を加速する」事態だと批判している。

インドの輸出禁止措置により、中国のワクチン外交のカードは一段と力を増した。習近平国家主席はインドネシア大統領との電話会談のなかで、国家単位のワクチンの囲い込みに反対する立場を表明している。輸出禁止に踏み切ったインドとは対照的だが、果たして善意の一手と受け取るべきか、見解は分かれそうだ。

How Russia and China are winning the vaccine diplomacy race | DW News

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中