最新記事

中国

インド製ワクチン輸出停止で、中国のワクチン外交加速 強まる警戒論

2021年5月13日(木)18時10分
青葉やまと

ベネズネラに到着した中国製ワクチンを迎えるベネズエラ・ロドリゲス副大統領と中国大使 REUTERS/Manaure Quintero

<アストラゼネカ製を大量に生産していたインドが、国内猛威を受けて輸出停止。好機と見た中国はプレゼンスを高めようとしている>

積極的なワクチン輸出政策を展開してきたインドは、輸出禁止措置を導入した。感染爆発による国内需要の急増に対応するためだが、主に南米など途上国の中国依存を高める結果につながるとして警戒論が噴出している。

インドはEUと中国に次ぐ世界第3位の新型コロナ用ワクチンの輸出国となっており、これまで100近くの国に対して計6700万回分を出荷してきた。米ブルームバーグは、あまりに積極的な輸出姿勢に、インド国内での接種プログラムを重視すべきではないかとの指摘も国際社会から寄せられていたほどだと指摘する。ここにきて1日あたりの新規感染者が急増したことで、生産していたアストラゼネカ製ワクチンの輸出停止に踏み切った。

これによってとくに大きな打撃を受けたのが、途上国の分配を担うWHO主導のCOVAXと呼ばれる枠組みだ。供給源の大半をインド製に依存している。この穴埋め役としてCOVAXは、中国製ワクチンの購入数を増やす方針だ。WHOはすでに中国シノファーム社製のワクチンに対して承認を与えており、まもなく中国シノバック社製品についても同様の承認が与えられる見通しとなっている。

南米・東南アジアを相手にした政治利用が懸念されている

好意的な見方をするならば、インド国内の混乱に端を発する世界的なワクチン不足の危機を中国が救ったようにも捉えることができよう。しかし、事態はそう単純ではない。

途上国を中心に急速に進む中国依存は、政治外交上の懸念を招きつつある。米ワシントン・ポスト紙は、外交問題評論家のジョシュ・ロギン氏による警戒論を掲載している。氏は寄稿記事のなかで、「中国はその権力をCOVID-19パンデミックのあらゆるステージで濫用し、国々を脅し、その利益を追求してきた」と手厳しい批判を展開している。

China Using 'Vaccine Diplomacy' To Build International Influence | NBC News NOW


ブラジルでは政府がファーウェイ製品の採用を禁止してきたが、ワクチンの輸出を中国に依頼するにあたり、この措置を自主的に停止した。また、南米中部のパラグアイが台湾の主権を認めないよう強い政治圧力を受けている一方、この要求に従った他のラテンアメリカの国々がワクチンの入手に至っている。ロギン氏は「中国は、その権力と影響力を我々(アメリカ)の裏庭で拡大するためにワクチンを利用している」と指摘する。

南米ではインドの輸出停止以前から中国産への依存度が高く、この傾向は輸出停止でさらに拡大する可能性がある。南北アメリカ協会のデータによると、チリでは国民の8割以上が少なくとも1回目のワクチン接種を済ませているが、そのうち7割以上が中国製だ。ペルーやアルゼンチンなどでも採用が目立つ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国CPI、4月は前年比+2.9%に鈍化 予想下回

ビジネス

為替、購買力平価と市場実勢の大幅乖離に関心=日銀3

ビジネス

英GSK、1─3月利益と売上高が予想超え 通期利益

ビジネス

JPモルガン、ロシアで保有の資産差し押さえも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中