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獅子像から消えた「文革」の文字──習近平の毛沢東礼賛が原因か?

2021年5月11日(火)14時05分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

これは毛沢東が犯した罪であり、文革は「二度とあってはならない現象」として、多くの人民の心に刻まれている。

したがって「文革中」という文言が「災難から逃れるために」という文脈の中であるのは、「毛沢東を批判していること」につながる。だから、文物保管の責任者が、「習近平への忖度」から削除したことが考えられる。

習近平はなぜ毛沢東を高く評価するのか?

習近平政権になってから、「毛沢東への先祖返り」と揶揄されるほど、習近平は毛沢東を高く評価するようになっているのはたしかなことだ。

なぜなら毛沢東から「諸葛孔明よりも賢い」と褒められていた習近平の父・習仲勲は、鄧小平の陰謀により失脚し、軟禁や投獄などで16年間の冤罪を受けたまま苦難の歳月を送っている(習仲勲を失脚させた犯人が鄧小平であることは、拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で詳述した)。

習仲勲はまた、毛沢東が「長征」(1934年~36年)の着地点として選んだ延安がある西北革命根拠地を築いた英雄の一人だ。毛沢東が西北革命根拠地の近くまで来た1935年10月、習仲勲は共産党内部の権力争いに巻き込まれ生き埋めにされる寸前だった。

それを知った毛沢東が、習仲勲らを殺害してはならないと緊急命令を出したので、命拾いをしたという事実がある。

もし毛沢東が「習仲勲らを殺害してはならない」という命令を出していなければ1935年10月に習仲勲はこの世から消されたし、となれば習近平がこの世に生まれることもなかったことにある。

だから習近平にとって毛沢東は「父親の命の恩人」であるだけでなく、「自分をこの世に誕生させた恩人」でもあるわけだ。

あの革命根拠地がなかったら、新中国(現在の中華人民共和国)は誕生していない。

だというのに、鄧小平は嫉妬心と野心から、習仲勲ら西北革命根拠地にいた革命家たちを次から次へと失脚に持って行った。その陰謀劇を描いたのが『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』だ。

2012年に中共中央総書記と中央軍事委員会主席にまで上り詰め、2013年には国家主席になった習近平は、鄧小平への復讐心も手伝ってだろう、「毛沢東回帰」と言われる言動が目立つようになった。

しかし、それは決して「第2の文革」を企てていることにはつながらない。

文革は自分の父親をさらに屈辱のどん底に追いやっているし、それがどれだけ中国の経済を破壊させてしまったかを習近平は知り尽くしているはずだ。

いまアメリカに打ち勝って「中華民族の偉大なる復興」を成し遂げることによって、父の無念を晴らそうとしている習近平が、文革に向かう可能性はゼロであると断言できる。 それを理解するには、鄧小平が何をやったかを深く知る必要がある。

鄧小平神話こそが、中国を強国に持って行った元凶であって、西側諸国がやるべきことは、鄧小平神話を打ち砕く勇気を持つことである。

それは「真実を見る勇気を持てるか否か」に掛かっている。

日本が中国の属国とならないためにも、多くの日本国民が、この現実を直視する勇気を持つことを祈ってやまない。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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