最新記事

中国

獅子像から消えた「文革」の文字──習近平の毛沢東礼賛が原因か?

2021年5月11日(火)14時05分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
土産物屋の毛沢東像

習近平の「毛沢東回帰」を揶揄するかのような毛沢東像(天安門広場の土産物屋で) Jason Lee-REUTERS

最近、北京の中山公園入口にある獅子の石像説明文から「文革中」の3文字が削除されたことが話題になっている。習近平の「毛沢東返り」傾向とともに、この現象をどう解釈すべきかを考察する。

中山公園前の説明文から「文革」の文字が消えた

今年5月6日、<中山公園門前の獅子石像の説明文から「文革中」の3文字が消えた>というツイートが発信され話題になっている。「文革」は1966年から76年まで行われた政治運動「文化大革命」の略である。

このツイートはもともと魯鈍という人が2021年4月30日に発表したWeChat(ウィチャット)(微信=ウェイシン)を転載したものだ。

北京の故宮の周辺にある中山公園の門前には一対の獅子の石像が置いてある。

ある日、魯鈍が中山公園をぶらぶらしていたところ、ふと、獅子石像に関する説明文の中に以前はあった「文革中」という文字が消えていることに気が付いた。そこで写真を撮って、以前のものと、気が付いた時の写真を並べて投稿したものだ。

以下に示すのが、気が付く前の、従来の説明文を添えた写真だ。

endo20210511133701.jpg
これまでの獅子石像の説明文

以前は以下のような説明文が添えてあった(中国語を日本語訳する)。

「この一対の石の獅子は、1918年に河北省大名市の鎮守使・王懐慶と統領・李階平が発見して公園に寄贈したものだ。2頭の獅子は体重が8,800斤以上あり、しゃがんでいて背筋が伸び、雄壮な姿をしている。1956年に考古学者が"これは宋代の遺物で、1000年の歴史がある"と認定した。20世紀の1960年代の"文革"中、石の獅子を守るために、公園のスタッフは石の獅子を地面に埋めたが、1971年に再び参観者と会うことができるようになった」

ところが魯鈍が気が付いた時には、この「"文革"中」の3文字が削除され、以下の写真のようになっていた。

endo20210511133702.jpg
「"文革"中」3文字が削除された後の獅子の石像の説明文

たしかに「20世紀60年代」(に)となっていて、「"文革"中」の3文字がない。

いつごろ削除されたのか

いつごろ「"文革"中」の3文字が削除されたのだろうか?

いろいろ調べてみると、2018年7月8日(22:06:44)の情報ではまだ「"文革"中」の3文字がある写真が個人の投稿写真に掲載されているのを見つけたので、2018年7月まではあったことを確認することができる(リンク先が不安定なのでURLを明記するのは控える)。

ところが2019年11月4日(00:21)の写真にはないので、2018年7月から2019年11月の間のどこかで看板を取り換えて削除したものと推測される。

何のために削除したのか?

問題は何のために削除したかということだ。

最も可能性が高いのは、「被害を受けるのを防ぐため地面に埋めた」という趣旨の文言があるので、これは「文革」を「災難」と結び付けていることを意味する。そのため「文革=災難」という連想を避けるための修正だろうということが考えられる。

文革はあまりに中国の全てを破壊し、一部の例外を除いた全国の人民が被害を受けているので、文革を「十年浩劫(ハオジェー)時代」(10年大災難時代)と称することもある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米百貨店コールズ、通期利益見通し引き上げ 株価は一

ワールド

ウクライナ首席補佐官、リヤド訪問 和平道筋でサウジ

ワールド

トランプ政権、学生や報道関係者のビザ有効期間を厳格

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部に2支援拠点追加 制圧後の住
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 10
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中