最新記事

新型コロナウイルス

コロナ落第生の日本、デジタル行政改革は「中国化」へ向かう

BIG BROTHER VS COVID

2021年5月6日(木)18時45分
高口康太(ジャーナリスト)

magSR20210506bigbrother-2-2.jpg

中国では大々的に利用されたスマホアプリ「健康コード」で人の移動を把握した(河北省の映画館) CAO JIANXIONG-VCG/GETTY IMAGES

中国政府は「データを走らせよ、市民の足を引っ張るな」をスローガンに、行政デジタル化は国民の利益に資するものとして強烈に推進している。

民間での活用も進む。大手IT企業アリババグループが開発したAIスコア「芝麻信用」は、モバイル決済、ネットショッピングやウェブサービスの利用履歴と犯罪歴などの行政データを組み合わせることで、個人の信用を点数化する。

伝統的な金融サービスでは、屋台の店主のような零細事業者が融資を受けることは難しかったが、屋台でもちゃんと客が付いているという支払いデータがあり、かつ犯罪歴がないなどのデータと照合して信用を証明できれば、融資が受けられるようになる――。筆者の取材にアリババの担当者が答えた言葉だ。

大企業の社員や不動産資産の保有者しか使えなかった金融サービスを、より多くの人が享受できるようにした「金融包摂」の成功例とされる。

データ活用はコロナ対策にとどまらず、大きな価値をもたらす。となれば、その基盤となる国民IDの導入にこれまで後ろ向きだった先進国で変化が生まれるのではないか。

「日本も基本的には中国と同じ方向に向かっている」

情報化社会や監視社会を研究する慶應義塾大学の大屋雄裕教授(法哲学)は言う。日本の未来戦略である「ソサエティー5.0」の構想を見ると、中国との共通点は多い。

「今までの情報社会では、人間が情報を解析することで価値が生まれてきました。ソサエティー5.0では、膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAIが解析し、その結果がロボットなどを通して人間にフィードバックされることで、これまでには出来なかった新たな価値が産業や社会にもたらされることになります」(内閣府ホームページ)

magSR20210506bigbrother-2-3.jpg

日本では統計「手作業」問題に限らず、行政デジタル化の遅れがコロナ対策の足を引っ張っている RODRIGO REYES MARIN-ZUMA PRESS-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

国民IDとなるマイナンバーカードはソサエティー5.0実現の基盤と位置付けられ、政府は普及活動に力を入れている。また、日本でも既に先駆的なデータ活用の取り組みは存在している。

例えば大阪府箕面市では、これまで学校や各行政部局がばらばらに持っていたデータを集約、分析し、家庭の問題や子供の虐待を発見する「子ども成長見守りシステム」を開発した。身長や体重など発育の遅れ、成績の急落といったデータから、問題の予兆をいち早くキャッチすることができる。

「現在は自治体単位の取り組みだけに、越境通学している子供のデータは追えない。行政コストの削減に加え、新たな技術によるデータ活用のためにも、データの統合と活用は不可欠だ」(大屋教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 9
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中