最新記事

新型コロナウイルス

コロナ落第生の日本、デジタル行政改革は「中国化」へ向かう

BIG BROTHER VS COVID

2021年5月6日(木)18時45分
高口康太(ジャーナリスト)
コロナ禍で休業する店舗

ワクチン接種率でも大きく後れを取る日本、感染の再拡大が続き、経済のダメージも大きい FIERS-ISTOCK

<大動員+デジタル技術でコロナ抑え込みに成功しているのは、中国だけではない。感染症対策に限らず、多くのメリットを生み出す行政デジタル化。日本も志向するが、ウイグル問題のような人権侵害はどう防ぐのか(後編)>

※前編より続く:コロナに勝った「中国デジタル監視技術」の意外に地味な正体

大動員とそれを支えるデジタル技術は、中国のみに見られるものではない。

韓国では大規模なPCR検査、調査スタッフを増員しての感染経路追跡という動員に加え、国民IDである住民登録番号に基づき、出入国履歴やクレジットカード、交通カードの利用履歴、携帯電話の位置情報など各種情報の統合、さらに監視カメラ映像の活用まで行っている。

なぜ、韓国はこのような対策を採ることができたのか。「韓国の感染症関連の法制度はもともと日本と大きく異なるものではなかった」と、国民IDに詳しい國學院大學の羅芝賢(ナ・ジヒョン)専任講師は指摘する。

転機となったのは2015年のMERS(中東呼吸器症候群)流行だ。国民の不安感が増大し、激しく政府を突き上げたことで緊急の法改正が行われ、前述の情報活用は合法化された。

コロナ対策の成功例として知られる台湾でも同様で、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行をきっかけに、動員体制と国民IDである身分証統一番号の活用を含めた情報収集、統合の仕組みが整えられている(関連記事:コロナ封じ込め「デジタル監視」を台湾人が受け入れる理由)。

一方、日本は1960年代以後、何度か国民IDの導入を試みてきたが、いずれも失敗に終わった。現行のマイナンバー制度も普及率は低い。

「世界的に見ても、導入を実現したのは韓国、台湾、エストニアなどの後発福祉国家ばかり」と、羅講師は指摘する。「アメリカやイギリス、ドイツ、日本などの先発福祉国家は失敗している」

後発福祉国家では、既存の住民番号を流用する形で新規の社会保障サービスが導入され、複数の行政情報を統合する国民IDが形成されてきた。中国の身分証も、80年代に導入された仕組みが、その後多くの行政サービスに活用されるという形で発展してきた。

一方、先発福祉国家では、行政サービスごとに個別の管理体系が構築されている。日本では戸籍、住民票、健康保険、納税などの事業ごとに番号が分かれ、それを管理する主体も異なる。

それらの統合にはコストがかかる上、市民にとってメリットに乏しいため受け入れる動機が弱い。羅講師は「福祉行政の向上をもたらさない形での国民ID導入は今後も難しい」と予測する。

日本も中国と「同じ方向」へ

近年の急激なデジタル技術の発展は、福祉の向上だけではない、多くのメリットをも生み出している。その最先端を走る中国では、国民IDを軸としたデータ統合により、行政効率が大きく向上した。

結婚や住宅ローン申し込みなどのたびに、無数の役所を駆けずり回らなければならないのが中国人民の不満のタネだったが、近年ではスマホ一つで完結することも多い。一部地方では離婚届までスマホで提出できるという徹底ぶりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ICE収容施設でパレスチナ人女性が発作、非人道的

ワールド

スウェーデン、市民権取得規則を厳格化へ 移民抑制図

ビジネス

イーライリリー、次世代細胞療法バイオベンチャーを2

ワールド

エプスタイン氏共犯者、トランプ氏に恩赦要請 議会証
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業績が良くても人気が伸びないエンタメ株の事情とは
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 9
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 10
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 5
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中