最新記事

新型コロナウイルス

コロナに勝った「中国デジタル監視技術」の意外に地味な正体

BIG BROTHER VS COVID

2021年5月6日(木)18時40分
高口康太(ジャーナリスト)
上海のAI関連イベント

「国家が全てを見張っている」は本当か(上海のAI関連イベント) QILAI SHEN-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<新型コロナウイルスを抑え込んだ中国。勝因は「監視国家だから」とよく言われるが、それは本当なのか。データ共産主義の知られざる実態から、中国コロナ対策の肝である「健康コード」と日本のCOCOAとの違いまで(前編)>

「想像できますか? 日本のコロナ感染統計は全部手作業って」

これは中国紙・新京報の今年2月19日付記事のタイトルだ。

日本では委託を受けた事業者が各都道府県のウェブサイトを目で見て、新型コロナウイルスの新規感染者数、死亡者数を集計していると政府が認めた。あまりのアナログっぷりは海を越えて、遠く中国でも話題となった。

統計問題だけではない。コロナ対策全般で日中の実績は好対照を描く。3月31日時点での累計感染者数は日本が約47万人に対し中国は約9万人。しかも、この差は今後さらに拡大するだろう。中国は昨年3月以後、ほぼ抑え込みに成功している。

なぜ中国はコロナを抑え込めたのか? デジタル監視国家だからとの解説をよく見掛けるが、デジタル技術はなにも魔法ではない。

「デジタル先進国」中国のコロナ対策を伝えるニュースは多い。分かりやすいのはドローンの活用だろう。

ロックダウン(都市封鎖)期間中に拡声器付きのドローンで空中を巡視し、外出している市民に自宅に戻るよう警告したというエピソードもあれば、農業用ドローンを活用しての消毒といった話もある。

magSR20210506bigbrother-1-2.jpg

空からドローンで消毒するといった事例はごく一部 CHINA DAILY-REUTERS

もう少しひねったニュースはバーチャル・リアリティー(VR=仮想現実)の活用だろうか。

映画『マイノリティ・リポート』では、主人公が空中で腕を動かすとコンピューターを操作できるというシーンがあるが、同様の技術が複数の病院、学校、ホテルで採用されたと中国電信は発表している。パソコンに触れなければ感染リスクが減るという理屈だ。

既にだいぶ魔法に近づいてきているが、もっとSFチックな噂もささやかれている。

中国全土に張り巡らされたAI(人工知能)監視カメラ網は、14億人民の一挙手一投足を全て見張っている。誰と誰が会っていたのか、全ては記録されている。感染経路を追跡することなど、いともたやすいことだ、と。

だが、こうしたエピソードの多くは実際よりも「盛られて」いることが多い。ドローンが使われたのはごくごく一部の地域だけ。VRの採用例はもっと少ない。AI監視カメラ網は特定の指名手配犯を探し出す力は持っていても、14億人民を全て監視するほどの力はまだない。

実際の対策はもっと地味で、シンプルなものだ。それは「大動員」と「デジタルによる効率化」という2つのキーワードから説明できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中