最新記事

台湾

コロナ封じ込め「デジタル監視」を台湾人が受け入れる理由

TAIWAN’S WIN EXPLAINED

2021年4月16日(金)16時45分
マルク・マーミノ、レイン・バンデンバーグ(共にロンドン大学キングス・カレッジ博士課程)
台湾の電車、新型コロナウイルス

感染者は少ないが、電車やバスなど公共交通機関ではマスク着用が義務付けられている。最近の新規感染者は1日平均3人程度 CENG SHOU YI-NURPHOTO/GETTY IMAGES

<SARSの経験と、徹底したITの活用が台湾の新型コロナ制圧に寄与している。だがそれだけではない。欧米諸国に比べ、人々が政府による監視を許容しているのはなぜか>

新型コロナウイルスとその変異株は今も世界中で猛威を振るっているが、感染症の封じ込めという点で抜群の成績を残しているのが台湾だ。

感染者数は4月6日時点で累計1048人、死者は10人。市中感染はわずかで、昨年の4月12日から12月22日までは感染者ゼロだった。しかもロックダウン(都市封鎖)は一度もしていない。

東アジアには、欧米社会に比べて新型コロナの封じ込めに成功している国や地域がいくつかある。なかでも突出した実績を上げているのが台湾だ。

なぜか。政治の仕組みや地理的な条件、あるいは人口の違いで説明できるのだろうか。

しかし民主的な体制(ニュージーランドや台湾)にも専制国家(ベトナムなど)にもコロナ対応の成功例はあるから、統治体制が決定的な要因とは思えない。

海で隔てられた島で、陸続きの国境がないという条件は同じでも、イギリスは感染爆発を防げなかった。台湾の人口は少ない(約2400万)が、多い国(中国など)にも成功例はある。

より説得力のありそうなのは、台湾が過去の公衆衛生上の危機、とりわけSARS(重症急性呼吸器症候群)流行時の経験に学んだからだという説明だ。

ロンドン大学キングス・カレッジの研究者らは東アジア諸国の感染対策を分析し、その結果を昨年5月に発表している。それによるとSARS(2003年)、新型インフルエンザ(2009年)、MERS(中東呼吸器症候群、2015年)の流行を受けて、これらの諸国は感染症対応の重要な施策を事前に導入していた。

台湾の場合、SARSの死者は37人にとどまったが、それでも行政機関や危機時のコミュニケーション、指揮系統、公衆衛生上の備え、テクノロジーの活用といった分野でいくつかの変革が促された。

呼吸器系感染症の新たな流行に備えてマスクなど個人用防護具(PPE)の備蓄を増やした。そしてマスクの流通や輸出を統制していたから、コロナ禍でも十分な数を確保できた。マスク着用の要請に対し、政治的な反発が出ることもなかった。

だから初動で感染拡大を防ぐことができ、住民の日常生活に大きな支障は出ていない。

技術の活用、特にIT技術による「デジタル監視」の台湾の成功への寄与も見逃せない。海外からの渡航者による市中感染を防ぐための感染経路追跡システムは世界トップレベルだ。

1人の感染者に対して20~30人の接触者を特定し、それぞれに14日間の隔離を義務付け、これまでに34万人以上が隔離措置を受けた。

【関連記事】規範の日本、ルールの中国。規範に基づくコロナ対策は限界が見え始めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ルノーCEO、新EU規則で現地部品調達の定義拡大を

ワールド

為替相場、投機的動向含め高い緊張感持って見極めてい

ワールド

米国防総省、民主議員を「不正」で調査 軍に違法な命

ワールド

イスラエル軍とハマスの戦闘続く 停戦合意後も双方に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中