最新記事

新型コロナウイルス

規範の日本、ルールの中国。規範に基づくコロナ対策は限界が見え始めた

2021年4月14日(水)11時55分
高口康太(ジャーナリスト)
東京の通勤客、新型コロナウイルス

東京の通勤客(4月6日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<内面化された規範と、厳格なルール。日中社会の好対照はコロナ対策にも反映されている。日本と異なり、中国は感染を制圧しているが、魔法のような監視技術があるわけではない>

「日本は本当に素晴らしい国です。日本人はみんな礼儀正しいし、ルールを守る国民なので、居心地がいい。ただ1つ、不思議なのが車の運転です。誰も制限速度を守りませんよね? 交通ルール通りのスピードで走っていると、追い抜かされたりクラクションを鳴らされたり。車に乗ると、日本人は性格が変わるんでしょうか」

素朴な疑問をもらしたのは、中国人の郭宇さん。昨年、日本に移民してきたばかりだ。趣味の温泉巡りのため、毎週末は車でドライブしているが、いつも不思議に感じているという。

彼の母国・中国の交通事情はと言うと、誰も制限速度なんて守らない混沌としていた時代から、近年大きく変化している。変化をもたらしたのは監視カメラだ。

主要都市の中心部には監視カメラが張り巡らされており、速度超過や車線変更、路上駐車などの交通違反を自動的に認識し、罰金を請求するシステムが導入されている。

AI(人工知能)の進化により細かな動きですら認識できるようになり、運転中の携帯電話通話にまで即座に罰金が科される。

新たなテクノロジーによって、劇的に交通環境が変わったわけだ。

もっとも、人々のマナーが変わったわけではない。監視カメラがある都市内ではジェントルな運転をしていたタクシードライバーが、郊外に出るやいなや爆走し始めるのはよくある話だ。

一方、日本人は規範を内面化している人が多い。警官や監視カメラによって見張られていなくても、ルールを守る人が大半だ。

というわけで、日本人と中国人の規範意識は好対照と言える。日本を訪問した中国人の多くが「日本は過ごしやすい」と感じるのは、監視の目がなければ相手が何をしでかすか分からない中国と比べて、ルールを守る日本人は安心できるから、ということのようだ。

ただし、内面化された規範は厳格なルールとは異なる。法律で決められた制限速度はあっても、「だいたい10キロオーバーまでは許容範囲」「ここの道路は広いから少し速度を上げてもいい」といった、法律で定められたルールとは異なった、ぼんやりとしたラインしか存在しない。

日本人の「ここまでは許される」ラインが変化してきた

ルールと規範をめぐる日中社会の好対照は、新型コロナウイルスの対策にも反映されている。

緊急事態宣言にせよ、まん延防止等重点措置にせよ、日本のコロナ対策は強制力が弱く、しかも人々が対策を守っているのかをチェックする仕組みは極めて少ない。社会の規範に基づく、人々の自発的な行動に多くを依存している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中