最新記事

中国

恐るべき江沢民の【1996】7号文件──ウイグル「ジェノサイド」の原型

2021年5月3日(月)12時40分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

当時「新疆分区」は習近平の父・習仲勲(1913年-2002年)が管轄する西北局の一部だった。陝西省で生まれ、小さいころから少数民族と共に生き、少数民族を愛し、少数民族に対する融和策を主張してきた習仲勲は、王震の殺戮行為に激怒し禁止したが、王震が従わなかった。そのため習仲勲は毛沢東に直訴したことさえある(この周辺の物語は拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で詳述した)。

毛沢東は習仲勲を大事にしていたので、王震を左遷させるが、結局王震の腹心の部下である王恩茂を王震の後釜に据え、王恩茂は「民族浄化」策を徹底していくのである。王恩茂は紆余曲折しながらも結局のところ1985年10月には中共新疆ウイグル自治区顧問委員会主任を務めて、1988年以降も全国政治協商会議の副主席を務めていたので、新疆統治に関しては30年以上の経験がある。王震と共に鄧小平の天安門事件武力鎮圧に賛同し、二人とも鄧小平の覚えめでたかった。ということは王震も王恩茂も、「民主を武力で弾圧する」という側の人間であるということだ。

従って、江沢民が基本的には王恩茂の意見に基づいて発布した中発【1996】7号文件は、当然のことながら「新疆ウイグル自治区の不穏な動きを鎮圧すること」を主眼ととしていることは明らかだ。もちろん第九次五ヵ年計画の経済成長目標を達成するために「自治区の安定が必要」ということになろうが、中国政府にとっての「安定」はウイグル人にとっての「人権蹂躙」であり「ジェノサイド」なのである。

中発【1996】7号文件の内容

中発【1996】7号文件のタイトルは「新疆の安定を維持するための中共中央政治局常務委員会会議紀要」となっている。内容というか、基本的精神を以下に列挙する。

●民族分裂主義と違法宗教活動は新疆の安定に影響を及ぼす最も大きな危険要素である。このことを明確に認識せよ。

●新疆には現在、多くの複雑な国際情勢と不安定要素が潜在している。もし警戒を怠り、即座に対応できるように各方面の業務を強化しないと、大規模な突発事件の発生を招く危険性があり、場合によっては広範囲な騒乱、動乱が出現する危険性もあり、それは新疆ウイグル自治区に留まらず、あるいは全国的な広がりへと発展する危険性さえ孕んでいる(筆者注:江沢民は1989年の天安門事件で趙紫陽総書記が失脚したために突如総書記に抜擢されたため、天安門事件のような全国的動乱が起きるのを非常に恐れていた)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米民主重鎮ペロシ氏が引退へ、女性初の下院議長 トラ

ワールド

トランプ米政権、重要鉱物リストに銅・石炭・ウランな

ビジネス

9月実質消費支出は前年比+1.8%(ロイター予測:

ワールド

トランプ氏、関税は「国民も幾分負担」 違憲判決に備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中