最新記事

環境

中南米12カ国が批准した「エスカス条約」、狙われる環境保護活動家の命を守れるか

2021年4月26日(月)10時02分

活動家グループのフロントライン・ディフェンダーが今月公表したデータによれば、昨年、南北アメリカでは284人の人権擁護活動家が殺害されており、世界全体の犠牲者の86%を占めていた。

啓発団体グローバル・ウィットネスによる2020年のレポートによれば、土地に関する権利や環境保護のための活動家が最も多く犠牲になったのは、エスカス条約にも署名したコロンビアである。

土地の権利をめぐっては、昨年コロンビアで64人の活動家が殺害された(2018年は25人)。これはグローバル・ウィットネスがこれまでに記録した同国に関するデータでは最多となっている。

やはり暴力が頻発するホットスポットとなっているものの、エスカス条約に調印していないのがホンジュラスだ。最近では昨年12月に発生した襲撃事件で、銃と山刀で武装した男たちが、環境保護活動家を家族の前で射殺している。

ゼロ・トレランス

エスカス条約は締約国に対し、「活動家に対する暴力を」監視・報告し、新たなルールの遵守を確保するための機関を設置することを命じるとともに、表現の自由、移動と平和的な集会の権利など、環境保護活動家の権利を定めている。

ボイド氏は、環境保護活動家を危険にさらしている紛争の多くは、鉱業など採取産業が主導し、地元のコミュニティに対して彼らの土地で何が起きるのか説明もせずに進められるプロジェクトが原因になっていると話す。

条約が実際に効果を発揮するためには、暴力事件の根絶に向けて、先住民の人々には自分たちの土地で起きることについて判断する権利、プロジェクトについて十分な情報と協議の機会を与えられる権利があることを各国政府と企業が認識しなければならない、とボイド氏は言う。

ボイド氏は「こうした明快なステップによって、人々の生命を危険に晒すことにつながっている多くの紛争が実際に予防されるだろう」と語る。

グローバル・ウィットネスの活動家、マリナ・コマンドゥッリ氏は、政府が十分なリソースを確保することを公約し、企業の価値観が変化することも鍵になると言う。

コマンドゥッリ氏は「(条約が効果を発揮するとしたら、それは)適切な予算が配分され、域内の全ての国が条約履行にコミットし、大企業が人間と地球を優先しはじめる場合に限られる」として、政府と企業の姿勢の変化が必須だと語る。

さらに同氏は「ラテンアメリカ・カリブ海地域の環境保護活動家は、脅迫され、犯罪者扱いされ、殺害されるのは日常茶飯事だ。多くの場合、暴力事件は企業活動に関連している。各国政府は、そうした犯罪行為に加担している」と指摘。

「気候変動の危機への対処においては、環境保護活動家が主役になる。暴力や脅迫に対しては、ゼロ・トレランス(まったく容認しない)のアプローチが必要だ」と訴えた。

Anastasia Moloney(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米雇用4月17.7万人増、失業率横ばい4.2% 労

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日に初対面 「困難だが建

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中