最新記事

中国

「米軍は中国軍より弱い」とアメリカが主張する狙いは?

2021年4月22日(木)11時02分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

となればなおさら、日本には以下のようなことが求められていることになる。

(1)ポストINFとして中距離弾道ミサイルを日本に配備すること。

(2)憲法を改正して日本が軍隊を持つこと。

(3)在日米軍の経費を日本が増額すること。 

(4)何よりも残り80%の米軍に代わって日本が矢面で戦う覚悟を持つこと。

日本にとっては実に厳しい現実が目の前に横たわっている。

中国が台湾を武力攻撃するのは、どういう場合か?

それでは、中国は本気で台湾を武力攻撃するだろうか?

アメリカが日本に「脅し」をかけている前提が、正しいか否かを先ず考察してみなければならない。詳細なシミュレーションはまた別途行うとして、中国が台湾を武力攻撃する場合をストレートにひとことで言うなら、「台湾政府が独立を宣言しようとした時」である。

台湾政府が独立を宣言しようとする動きに出なければ、中国(大陸、北京政府)は台湾を武力攻撃することはないだろう。

理由はいくつかある。

その一:たとえ上記のような米軍に関する不利があろうとも、中国軍の軍事力はまだ不十分で、米軍に完全に勝利できるという保証がない。負け戦をすれば、一党支配体制は崩壊する。

その二:戦争を起こせば、人心が乱れて社会不安が増す。社会不安が増せば、一党支配体制は揺らぐ。

その三:戦争になれば台湾の無辜の民の命を奪うことになり、国際社会からの厳しい制裁を受ける。その制裁の程度は天安門事件や香港問題あるいはウイグルの人権問題の比ではなく、中国は孤立して中国経済が成立しなくなる。そうすれば一党支配体制が崩壊する。

このように、いくつもの理由があるため、台湾政府が独立を叫ばない限り、中国が積極的に武力攻撃することはない。

ならば、なぜ現在、台湾周辺で中国軍の軍事活動を活発化せているかと言うと、アメリカが台湾を支援して政府高官を台湾に送り込んだりしているからである。活発な軍事活動は2020年8月のアザール厚生長官の台湾訪問から始まった。だからアメリカと、それを喜んで受け入れている蔡英文総統に威嚇しているに過ぎない。

ではトランプ政権はなぜアザールを訪台させたかと言うと、そこには米中のハイテク競争がある。これに関しては、追ってまた機会を見て分析する。

(なお、中国が軍事活動を活発化させたもう一つの理由に、香港デモに影響を受けた台湾独立派の動きがある。これは習近平の自業自得で、書きたいことが多いが、文字数の関係上、別途考察することとする。)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 トランプ関税15%の衝撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月5日号(7月29日発売)は「トランプ関税15%の衝撃」特集。例外的に低い税率は同盟国・日本への配慮か、ディールの罠

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

テスラに2.43億ドルの賠償命令、死傷事故で連邦陪

ビジネス

バークシャー、第2四半期は減益 クラフト株で37.

ビジネス

クグラーFRB理事が退任、8日付 トランプ氏歓迎

ビジネス

アングル:米企業のCEO交代加速、業績不振や問題行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マイクロプラスチックを血中から取り除くことは可能なのか?
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 6
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 9
    ハムストリングスは「体重」を求めていた...神が「脚…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中