最新記事

米黒人史

【やさしい解説】米南部で「復活」した人種隔離政策「ジム・クロウ法」とは

2021年4月8日(木)13時10分
リベラルアーツガイド

2-1-2: 社会的規範

そして上述のような法律規則に加えて、社会的な規範、つまり日常におけるルールとともにジムクロウ制度は成り立ってたといえます。

たとえば、ジムクロウの社会的な規範には次のような具体例があります。

呼称に関して... 黒人は白人に必ず敬称を用いた(MrやMiss)一方で、白人が黒人に敬称を用いることは皆無であった

日常的な振る舞い...黒人は白人と話すときに帽子を取ること、黒人が贅沢な暮らし(高級車に乗ること、立派な服を着ること)は見せびらかしてはいけない等

黒人男性と白人女性の関係...白人男性は黒人男性と白人女性が関係をもつことを嫌った。関係をもったとされた場合は、「犯人」である黒人男性はリンチされ、公開処刑されることが大半であった

労使関係...白人が地主の土地で働く場合は、奴隷同然に「主人」の指示に従う必要があった

ジムクロウ制度は実体があるものではなく、上述した内容のような「法律規制」と「社会的規範」から成り立っていました。

2-2: ジムクロウ法の理由

ジムクロウ法を正当化するために用いられた理由は多様です。たとえば、聖書の読解から奴隷制やジムクロウ法を正当化する人びともいました。

しかし、最も中心的な理由は「1896年のプレッシー判決」でしょう。差別稼働させるイデオロギーであった「社会進化論」「人種主義」とともに紹介していきます。

2-2-1: プレッシー対ファーガソン裁判

プレッシー対ファーガソン裁判とは、

鉄道車両における白人と黒人の分離を定めた1890年のルイジアナ州法を連邦最高裁が是認したもの

以後、約半世紀にわたる「分離すれど平等」の原理のもと、南部における人種隔離体制を正当化する理由となったもの

です。

概要を詳しくみていきましょう。

1890年代まで黒人は合衆国憲法とその修正条項を盾に、ある程度抵抗をすることが可能でした。しかし、プレッシー対ファーガソン裁判によって、その事態は急変しました。

ホーマー・プレッシーは8分の7が白人の血で、8分の1が黒人の男性でした。つまり、言われなければ誰も気づかないほど、見た目は白人だったのです。

しかし問題となったのは、彼の体内に流れる8分の1の黒人の血です。この血があるために、白人席に乗車した瞬間、プレッシーは逮捕されたのです。

メモ

黒人の血が一滴でも流れている限り、黒人と分類されることを「ワンドロップ・ルール」といいます。(→詳しくはこちらの記事

平等の権利を求める弁護団は有色人種の座席を設けることに抗議しただけでなく、ジムクロウ制度そのものを止めるために戦いました。しかし、ヘンリー・ブラウン判事は「分離すれど平等」のもと、弁護団の主張を退けたのでした。

この瞬間、南北戦争後の再建期が目指した黒人の権利は死文となりました。連邦政府はジムクロウという人種主義制度を公認し、黒人や有色人種を二級市民へとおとしめることを認めたのです。

ちなみに、「ナチスのニュルンベルク法はアメリカ合衆国の人種主義制度をお手本としていた」という衝撃の歴史的事実が指摘されています。興味のある方は次の書籍を読んでみてください。

参考


Hitler's American Model: The United States and the Making of Nazi Race Law
created by Rinker
¥2,419
(2021/04/06 21:11:33時点 Amazon調べ-詳細)
Kindle
Amazon


2-2-2: 社会進化論

ジムクロウのような人種主義制度を稼働させたイデオロギーとして有名なのは、社会進化論です。社会進化論とは人間の社会や文化が進歩的に発展していくと考える思想です。

この思想が蔓延した当時の社会では、白人の優性と黒人の劣性がまことしやかに信じられていました。

そして、社会進化論は次のような出来事を正当化するイデオロギーとして導入されます。

植民地や帝国主義の経済的競争は、自然の摂理に従っている

寒冷気候で生きる白人は強者であり、温暖な気候で生きる黒人は生存競争を勝ち抜いていない弱者

たとえば、ノーベル文学賞を受賞したルドヤード・キップリングは帝国主義を支持し、白人の優越性を謳った『白人の重荷』(1899)を書きました。これは社会進化論を背景に書かれた本です。

参考

社会進化論について詳しくは、次の記事を参照ください。

【社会進化論とは】スペンサーの議論や問題点をわかりやすく解説

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中