最新記事

中韓関係

韓国「二面相」外交

2021年4月4日(日)18時43分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

その鄭外相は会談で概ね以下のように述べている。


――韓国は中国との関係が発展することを非常に重視している。韓国は、中国共産党が建党100周年記念を迎えることを心から祝賀し、さまざまな分野で中国との協力関係を強化し、韓中国交樹立30周年を機に、両国関係のさらなる発展を促進することを望んでいる。(中略)韓国は、南北関係の改善、朝鮮半島の非核化、半島における恒久的な平和メカニズムの確立に取り組んでおり、中国が半島問題において引き続き重要な役割を果たすことに感謝するとともに期待している。

韓中両国は、今年前半に、両国の外交部間の新たなハイレベル戦略対話と、次官級の外交・安全保障に関する「2+2」対話の第1回目を開催することに合意し、韓中関係の将来の発展に関する委員会を早急に設置し、両国の外交関係樹立30周年の記念行事の準備を開始することに合意した。(引用ここまで。)


これはアメリカでの安保担当高官による日米間3ヵ国の会談の実質的な効果を薄めるに十分ではないだろうか。

韓国はなぜここまで露骨に中国寄りの言動を取るようになってしまったのだろう。

中国の最近の動きを見てみよう。

習近平はバイデン政権誕生と同時に動いていた

バイデンは選挙運動中から、トランプとの違いを明確に打ち出すために、盛んに「国際環境に戻る」とか「同盟国や友好国との連携を強化する」と言っていた。

だから習近平は最初からそのための予防線を張り、まず韓国を中国側に取り込むことに熱心だった。

バイデン政権が正式に誕生したのは今年1月20日だが、1月24日になると習近平は韓国の文在寅大統領に誕生日の祝電を送り、続けざま1月26日には文在寅に電話し、中韓首脳電話会談を行っている。そこでは前述の鄭義溶が述べたのとほぼ同様の話が成され、さらに習近平の訪韓問題にも触れたという。

その結果3月18日に行われた米韓「2+2」会談では、韓国は「中国を名指しで批判することを拒否した」のである。

習近平戦略の何と効果的なことよ!

事実、鄭義溶は3月31日の訪中前の記者会見でも訪中時も、いく度にもわたり「韓国は米中どちらの側にも立たない」と明言しているのである。「米中両国と仲良くする」という意味でもあると解説されているが、中国からすれば「アメリカ一辺倒」でさえなければ、差し当たって「米韓離間」は成功したと言えるだろう。

中国のネットには「韓国のバランス外交」という種類の見出しの記事が数多くみられる。たとえば韓国外交バランス術:外交長官は訪中し国家安全担当首長は訪米「」など、皮肉たっぷりだ。他の報道では「長官の方が首長より身分が上」というのもあり、韓国はアメリカよりも中国を重視しているといった記事も散見される。

翻(ひるがえ)って、わが日本。

習近平の国賓招聘を未だに「中止した」とは言えないのだから、どんなにアメリカの要求に従い中国を名指し批判してみたり、アメリカの海軍士官学校で安保担当高官が対面式の会談を行ったところで、日本の対中強硬姿勢の本気度など、到底信じることはできない。次には日本が韓国のように「二面相」外交と揶揄されないように願いたいものだ。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日発売)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏、建設労組の支持獲得 再選へ追い風

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設

ワールド

ロシア経済、悲観シナリオでは失速・ルーブル急落も=

ビジネス

ボーイング、7四半期ぶり減収 737事故の影響重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中