最新記事

アメリカ社会

アトランタ銃撃でアジア系住民に動揺 ヘイトクライム増加を懸念

2021年3月18日(木)16時52分

米南部ジョージア州アトランタ近郊で16日に発生した銃撃事件の死者8人のうち6人がアジア系女性だったことを受け、全米のアジア系住民に動揺が広がっている。写真はジョージア州アクワースで、銃撃事件のあった店舗の前に置かれた花(2021年 ロイター/Shannon Stapleton)

米南部ジョージア州アトランタ近郊で16日に発生した銃撃事件の死者8人のうち6人がアジア系女性だったことを受け、全米のアジア系住民に動揺が広がっている。

当局は、複数のマッサージ店を連続銃撃した容疑で21歳の白人の男を逮捕。容疑者は犯行の動機として性的指向を供述しているというが、警察は人種差別の可能性も排除せず動機の解明を進めている。

アトランタ郊外のアジア食材店を訪れた50歳の男性は、このところアジア系への悪意ある嫌がらせをより頻繁に受けるようになったと明かす。ある日、車を停めようとしたところ「子供から『中国に帰れ』と罵声を浴びせられた。私は韓国出身なのに」と嘆いた。

新型コロナウイルス感染が拡大して以降、米国内のアジア系に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)の報告件数は急増しており、中でも、男性より女性のほうが標的になる傾向が高いことが明らかとなった。

サンフランシスコ州立大学でアジア系アメリカ人研究の教鞭を取る傍ら、コロナ禍でのアジア系への暴力行為を追跡調査する団体「ストップAAPIヘイト」を設立したラッセル・チョン教授は「社会全体がトラウマになっている」と語る。

同団体の調査によると、2020年3月─2021年2月に報告されたアジア系への差別行為は3795件。その多くが言葉による嫌がらせなどで、女性が被害に遭った件数は男性の約2倍だった。また約半数は、アジア系が人口の約15%を占めるカリフォルニア州で発生していた。

一方、カリフォルニア州立大サンバナディーノ校の憎悪・過激主義研究センターによると、主要16都市で報告されたアジア系に対するヘイトクライムは2019年から2020年にかけて149%増加。ヘイトクライム全体が7%減少しているのと対照をなす結果となった。

これは主に、新型コロナウイルスが中国の武漢市で最初に確認され、トランプ前大統領が「チャイナウイルス」などと呼んだことが反アジア感情を刺激したためと指摘されている。

ロイター/イプソスが4430人の米国人を対象に2月18─24日に実施した調査では、37%が新型コロナウイルスは武漢の研究所で作られたと信じていることがわかった。共和党支持者の54%、民主党支持者でも24%がそう考えている。新型コロナウイルスの起源を巡る調査では、武漢の研究所からウイルスが流出したことを示す信頼するに足る証拠は見つかっていない。

アジア系へのヘイトクライム増加に対して政府に対策を講じるよう求める声が上がっており、下院はこの問題を巡り18日に公聴会を実施する予定となっている。

ニューヨーク市立大学クイーンズ・カレッジのフランク・ウー学長も、「アジア系住民は外出を恐れている。新型コロナウイルス感染のみならず、ただ外を歩いているだけで感染拡大の責任をなじられたり、追いかけられたりする」と訴えた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・マスク姿のアジア人女性がニューヨークで暴行受ける
・アジア系への暴力や嫌がらせが増加、米女優オリビア・マンら立ち上がる
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税交渉で来週早々に訪米、きょうは協議してない=赤

ワールド

アングル:アルゼンチン最高裁の地下にナチス資料、よ

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 4
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 5
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 8
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 8
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中