最新記事

医療

食物アレルギーは「免疫療法」で克服できる時代へ

2021年3月17日(水)16時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

この免疫療法において、乳アレルギーを対象に世界初の臨床試験を行ったのが、本書の著者であるナドー博士が率いるスタンフォード大学のアレルギー・喘息研究センターのチームだ。世界最先端のアレルギー研究を行っている同大学には、世界中から研究者が集まり、多くの患者が治療や治験に参加している(ちなみに同研究所は自らも重度のアレルギーに苦しんだ経験のある、Napsterの創設者でFacebookの初代CEOもつとめた実業家のショーン・パーカーの寄付による研究所で、正式名称を「スタンフォード大学ショーン・N・パーカー・アレルギー・喘息研究センター」という)。

しかし、そのアメリカでも食物アレルギーを治療できる研究機関が同研究所ほかに非常に限られていることから、飛行機で通院するなど、治療費など患者の負担が大きいことをナドー博士は指摘する。また、アレルギー反応は個人差が大きく、生死にかかわるため、医療チームの連携やきめ細かなコントロール、そして患者と家族は長期間の忍耐など、精神的負担も強いられることとなる。したがって、治療の継続もまた課題となるなど、研究途上の分野でもあるのだ。

当然、食物アレルギーの診断や治療は、専門の医師のもとで行うようにと著者たちは警告する。まだすべてが解明されていないということは、これまでの常識が覆される可能性もあるということだ。しかし、本書で紹介される最新の知見によって食物アレルギーに対して攻勢に出るための強力な武器になるだろう。何よりもいまだに広まっている「アレルゲン回避」への誤解が解け、この治療に取り組もうという人が増えれば、症例の蓄積や専門家の育成など、この研究分野の発展に大きく寄与することができる。それこそが食物アレルギーに関する一般書としての本書の功績となるだろう。

スタンフォード大学発 食物アレルギー克服プログラム
 ケアリー・ナドー&スローン・バーネット 著
 山田美明 訳
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:高級品業界が頼る中東富裕層、地政学リスク

ワールド

トランプ氏、イラン制裁解除計画を撤回 必要なら再爆

ワールド

トランプ氏、金利1%に引き下げ希望 「パウエル議長

ワールド

トランプ氏「北朝鮮問題は解決可能」、金正恩氏と良好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 4
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 5
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中