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米外交

最善の対中政策は「何もしないこと」だ

Let China Hamper Itself

2021年3月8日(月)12時00分
サルバトーリ・バボネス(シドニー大学社会学准教授)

欧州も中南米もそっぽ

世界大戦があり得ない以上、中国共産党を国家の中枢から追い出すことができるのは中国国民だけだ。

2012年11月の習近平(シー・チンピン)政権誕生以前の緩やかな自由化路線に中国が回帰することこそが、アメリカとその同盟国にとってより合理的な目標であり、中国に自ら選択するべきだと確信させなければならない。

自国の問題は全てアメリカの悪意が原因だと中国が信じ続ける限り、改革は望めない。

中国が世界の頂点という正当な地位を手にすることに対して、アメリカはプライドが邪魔して超大国の座を潔く譲ることができない──。そんな自分たちのストーリーを、中国は信じ込んでいるようだ。

だが(ほとんどの場合はアメリカの圧力と無関係に)多くの国と対立するにつれ、中国の指導者たちはいずれ理解するだろう。米中関係の行方はどうであれ、各国が中国の覇権に疑念を抱いている、と。

中国の外交的影響力を制限しようとするオーストラリアとの衝突も、尖閣諸島をめぐる日本との対立も、係争地ラダックでのインドとの戦闘も、アメリカの傲慢が引き起こしたものではない。南シナ海での領有権争いもしかりだ。

さらに、今や中国は欧州各国とも人権問題で争い、また中南米の国々とは違法漁業に関して、アフリカ各国とは対中債務をめぐってもめている。

いずれの問題も原因は自らの挑発的態度にあると、中国は気付かなければならない。

米政権が中国に目覚めを促す上で、最も効果的なのは手出しをしないことだ。中国と対立する国には、それぞれ中国に不満を抱く理由がある。アメリカの励ましは要らないし、支援の申し出は問題を複雑化させるだけだろう。

バイデンは同盟国との協力を掲げ、アントニー・ブリンケン米国務長官は「国際システム悪用の責任」を中国に取らせると明言している。だが、他国の問題を解決したいという誘惑に負けてはならない。

「何もしない」難しさ

ドナルド・トランプ前米大統領をしのごうと、中国に対してさらに強硬になるべきではない。違いを打ち出したいなら、ひたすら傍観姿勢で歴史の成り行きを見守るべきだ。

バイデンはアメリカの先進技術への中国のアクセス制限を続ける一方、トランプ前政権がやり過ぎた分野で巻き戻しを検討する必要がある。

手始めとして格好なのは、友好関係にある日本や台湾にも打撃を与えている鉄鋼・アルミ追加関税の撤回かもしれない。トランプ政権が決定したものの、ほぼ象徴的な意味合いしかない中国共産党員対象のビザ制限も解除できるのではないか。

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