最新記事

ミャンマー

ミャンマー国軍が「利益に反する」クーデターを起こした本当の理由

Why the Army Seized Power

2021年3月1日(月)19時30分
アーサー・スワンイエトウン(軍史研究家)

国際社会ではスーチーのイメージは地に落ちたとはいえ、国民が彼女を熱狂的に支持していることに、国軍上層部はいら立ちを募らせたはずだ。兵士たちの間にまでスーチーの影響力が浸透することを恐れて、彼らがクーデターに踏み切ったとしても不思議ではない。

国民への根深い不信感

これは2つ目の要素につながる。先に述べたとおり、国軍は強固な結束に固執している。その理由は、自身の歴史的な経験と、国民に対する深い不信感に根差している。

国軍は今回のクーデターの名目として、昨年11月に行われてNLDが圧勝した総選挙が不正に行われたと主張している。ただし、ミャンマーの選挙は無記名投票のため、彼らの言う「不正」とは、軍政下で政権与党だった連邦団結発展党(USDP)ではなくNLDに、国軍内部から票が流れたことが念頭にあると、広く考えられている。国軍のように緊密で疑い深い組織は、内部にそうした反対意見が存在するという可能性さえ、非常に警戒するのだ。

キャラハンや、ミャンマー研究の権威ロバート・テイラーが『ビルマ国家論』で指摘しているように、この国では民族意識や宗教、イデオロギーのほうが国軍より人々の忠誠心をかき立ててきた。1948年に勃発した内戦では1万人以上の兵士が、軍を離脱してさまざまな勢力に流れた。

キャラハンはさらに、国軍の歴史を通して、現場の指揮官と参謀将校が緊張関係にあることに注目している。1962年の軍事クーデターの後に国軍は中央集権化を進めつつ、全国の地方軍司令部を2個から14個に増やした。空軍と海軍は、はるかに大規模な陸軍に従属する形になった。

国民への根深い不信感から、国軍は常に、反対勢力を抑止するために強力な統一戦線を示そうとしてきた。潜在的な内部分裂を反対勢力に悪用されることを恐れているのだ。

そうした懸念に全く根拠がないわけではない。2月1日のクーデター以来、警察官や兵士が離反してデモ隊に加わる動画がネット上で公開されている。ある動画では機動隊員が隊列を崩し、放水からデモ隊を守っていた。

さらに、国軍幹部の若い家族や国軍関係者の若い世代がクーデターに公然と異議を唱え、抗議デモに繰り出している。デモに対する軍の対応が比較的おとなしかったのは、少なくともこれが一因ではないかと多くの人が疑っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「国連は存続すべき」、ガザ評議会が代替と

ワールド

欧米間の信頼低下「大きな警鐘」、ECB総裁「欧州統

ビジネス

インタビュー:中国の対日レアアース規制、長期化の可

ワールド

マクロスコープ:高市氏、政策実現に意欲 「財政のメ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 2
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 3
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 4
    「耳の中に何かいる...」海で男性の耳に「まさかの生…
  • 5
    「死ぬところだった...」旅行先で現地の子供に「超危…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    トランプが「NATOのアメリカ離れ」を加速させている…
  • 8
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 9
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 10
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中