最新記事

韓国社会

シングルでも結婚でもない、女性2人の愉快で幸福な共同生活

2021年3月2日(火)18時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

著者のキム・ハナ(左)とファン・ソヌ(右) Kim Hana and Hwang Sunwoo

<一人暮らしに孤独や不安を感じ始めた40代の女性2人が、気の合う相手を人生の「パートナー」に選んだ......韓国で話題のエッセイが邦訳版に>

元コピーライターのキム・ハナと元ファッションエディターのファン・ソヌ、30代半ばに知り合ったふたりは意気投合し、40歳を前にしてソウルでマンションを購入し同居生活を始める――。

2019年に刊行された2人の共同生活記女ふたり、暮らしています。(CCCメディアハウス刊)は、同世代の女性を中心に幅広い支持を得て、韓国国内で4万6000部を売り上げた。

本書が韓国で多くの女性に受け入れられたのは、「シングルでも結婚でもない、分子式家族」という新しい生き方の可能性を示したから。2月末に発刊された邦訳版から、冒頭の一編を掲載する。

◇ ◇ ◇


分子家族の誕生

「ひとり暮らしが性に合っている」というのは、十年ぐらいやってみてから言うべきことだと思う。

私の場合、初めはひとり暮らしがものすごく楽しかった。友達と一緒に住んだこともあったけれど、決して広いとは言えない空間をシェアするのは、性格と生活習慣がよっぽど合わないかぎり、お互いにストレスの溜まるものだった。完全に私ひとりの空間で、足ふきマット一つから洗濯物の干し方、本の並べ方まで、自分の思いどおりにやるのが私の性格に合っていた(と思っていた)。

ところが、そんな生活が十何年も続くと別のストレスが溜まっていたようだ。いつだったか、釜山(プサン)の実家に帰った時のことだった。朝早くから両親が朝食の準備を始め、何かをぐつぐつ煮たり、がちゃがちゃと食器を並べる音に、私は自然と目を覚ました。ご飯とチゲのにおいがした。その音とにおいに包まれて横たわっていることがこのうえなく温かく感じられ、なぜか涙が出そうになった。

そんな些細なことにじんとしたのは、私ひとりで迎える静かな朝の空気はそうではないという意味でもあった。その朝以来、私は、ひとり暮らしのために注いでいるエネルギーについて意識するようになった。特に夜になると、余計な考えや不安のようなものに自分でも気づかないうちにずいぶんエネルギーを使っていた。そのつらさが、ひとり暮らしの気楽さと身軽さと楽しさを超えたのは、その頃ではなかったかと思う。

結婚は解決策ではないように思えた。ただ、ひとりでいることのつらさを避けるために結婚制度と夫の家族と家父長制の中に飛び込むのは、苦労の渦に突っ込むようなバカなまねだった。私をすっかりバカにしてくれる魅力的な男性が現れたなら別だけど。でも、それも私が望んでいることではなかった。

私は自然と、違った形の暮らし方を模索しはじめた。友達に一緒に暮らさない? と言ってそれとなく気持ちを探ってみたり、シェアハウスを探したりもした。そうして、私とよく似た事情の友達と出会い、一緒に暮らすことになった。同じ釜山の出身で、長い間ひとり暮らしをしていて、そろそろひとりでもなく結婚でもない生活を考えはじめていて、私と同様、猫を二匹飼っていた。

私たちは、銀行ローンを組んで広いマンションを買った。ふたりがそれぞれマンションを買うよりずっといい条件だった。ひとりで買える40~50平方メートルの部屋にキッチン、トイレ、玄関がぎゅっと詰まっているより、それらを備えた約90平方メートルの部屋をふたりで使うと、広くて快適だった。四匹の猫も、前とは違って広い空間を跳び回るようになった。そして、何といってもここには浴槽がある。ひとりで暮らすのにちょうどいい小さな部屋に大きな不満はなかったけれど、ただ一つだけ、浴槽がないことが本当に残念だった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドル一時急落、154円後半まで約2円 介入警戒の売

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=

ビジネス

ユーロ圏銀行融資、3月も低調 家計向けは10年ぶり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中